初心者でもよくわかるインフレスライド

工事請負契約書

インフレスライドとは、建設工事において、日本国内で急激なインフレが起きて契約金額が著しく不適当となったときに、契約金額の変更を請求できる制度です。


こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。

インフレスライドって1度ルールを読んでみても良く分からない制度ですよね。

ここではインフレスライドについてわかりやすく解説します。

スポンサーリンク

スライドってなに?

そもそもスライド制度とは何でしょう?

みなさんご存知の通り、建設工事って長いものだと10年以上も工期が掛かることがあります。

私の市役所でも1年以上かかる工事はありますし、そんな長期間の請負契約ですと、たとえどんなに正しく積算していたとしても、世の中の賃金・物価変動によって契約金額が不適切となってしまうことがあるんです。そうなってしまうと、どちらか一方だけが損しちゃいますよね。

この不公平を是正するために、「賃金や物価の変動を契約金額に反映させる」というスライドと呼ばれる制度があります。価格変動による増額を受注者(施工業者)だけでなく発注者(市役所)も負担しますよという考え方ですね。

カミノ
カミノ

スライドと呼ばれる理由は、賃金などの上昇に添って滑らせる(スライドさせる)ように契約金額を上昇させるからですね。

スライド条項に書かれている3つのスライド

スライドについては、工事請負契約書に書いてあります。

例えば、令和2年度の東京都の契約書では、第24条に3種類のスライドが説明されています。

その3種類とは、全体スライド単品スライドインフレスライドの3つです。

色分けしてみました。

(賃金又は物価の変動に基づく契約金額の変更)
第24条
 発注者又は受注者は、工期内で契約締結の日から9月を経過した後に日本国内における賃金水準又は物価水準の変動により契約金額が不適当となったと認めたときは、相手方に対して契約金額の変更を請求することができる。
2 発注者又は受注者は、前項の規定による請求があったときは、変動前残工事金額(契約金額から当該請求時の既済部分に相応する契約金額を控除した額をいう。以下同じ。)と変動後残工事金額(変動後の賃金又は物価を基礎として算出した変動前残工事金額に相応する額をいう。以下同じ。)との差額のうち変動前残工事金額の100分の1を超える額につき、契約金額の変更に応じなければならない。
3 変動前残工事金額及び変動後残工事金額は、請求のあった日を基準とし、物価指数等に基づき発注者と受注者とが協議して定める。ただし、協議が整わない場合にあっては、発注者が定め、受注者に通知する。
4 第1項の規定による請求は、この条の規定により契約金額の変更を行った後再度行うことができる。この場合においては、同項中「契約締結の日」とあるのは「直前のこの条に基づく契約金額変更の基準とした日」とするものとする。

5 特別な要因により工期内に主要な工事材料の日本国内における価格に著しい変動を生じ、契約金額が不適当となったときは、発注者又は受注者は、前各項の規定によるほか、契約金額の変更を請求することができる。
6 予期することのできない特別の事情により、工期内に日本国内において急激なインフレーション又はデフレーションを生じ、契約金額が著しく不適当となったときは、発注者又は受注者は、前各項の規定にかかわらず、契約金額の変更を請求することができる。
7 前2項の場合において、契約金額の変更額については、発注者と受注者とが協議して定める。ただし、協議が整わない場合にあっては、発注者が定め、受注者に通知する。

令和2年度 東京都 工事請負契約書
カミノ
カミノ

東京都の場合は、全体スライドの条件が国の基準からちょっと変わってます。このように自治体によってルールが違う場合がありますのでご注意ください。

3つのスライドができた経緯

読み飛ばしてもらっても構いませんm(__)m

インフレスライドと他のスライドの違いを説明するまえに、導入された経緯を知ると理解をしやすいと思いますので、簡単にスライド制度の成り立ちを見てみましょう٩(ˊᗜˋ*)و

制度というものは理由があってはじめて設けられるものですから、スライドが3種類に枝分かれしている理由もあるはずです。

まず、建設工事における請負契約関係で、受注者だけが不利な契約をなされないように、昭和24年の建設業法の制定によりその旨が明文化されました。それを受けて、昭和25年の建設工事標準請負契約約款には物価の変動等による請負代金額の変更(いわゆるスライド条項)が規定されています。

その後、いろいろ変更はあったのですが、基本的に長期工事のための「全体スライド条項」と短期工事でも激しい価格変動のときに適用できる「インフレスライド条項」が規定されていました。

しかし、昭和54、55年にかけて、第二次オイルショックが発生した際、賃金や物価の水準は全体としてはさほどの上昇もなく落ち着いて推移したものの、一部の石油関連資材価格の高騰により建設工事の円滑な実施が危ぶまれる状態に見舞われました。このような状況は予期されていなかったため、昭和55年にこの状況に対応するための暫定措置として工事毎に「特約条項」を設けて対応したのです。この「特約条項」が一般化されて規定されたものが「単品スライド」と呼ばれています。

平成26年に公共工事の品質確保の促進に関する法律(通称:品確法)が改正され、そのなかで予定価格の適正な設定が発注者の責務だとしています。

国交省は平成26年から実際にインフレスライドの運用マニュアルを定めて、運用を開始しましたが、それ以降毎年インフレスライドは通達されています。

スポンサーリンク

インフレスライドとは?

インフレスライドとは、建設工事において、日本国内において急激なインフレが起きて契約金額が著しく不適当となったときに、契約金額の変更を請求できる制度です。

対象工事・・・2月28日以前に契約締結した工事で、工期が2ヵ月以上残っているもの。

変更となるもの・・・基準日以降の残工事分の資材、労務等。

変更金額・・・残工事分を変更積算したうちの、残工事費の1%までは施工者負担となり、1%を超える額のみを増額変更する。

計算式・・・S=[②-①-(①×1%)]

S:増額スライド額
①:残工事費
②:変動後(基準日)の労務単価・資材単価を入れて算出した①に相当する額

ややこしそうに見える計算式ですが、実はそんなに難しくありません。

さて、インフレスライドは、急激なインフレが起きているときに実施される措置ですが、「急激なインフレが起きている」と、誰が判断するんでしょう。

正解は「国土交通省」です。

日本はインフレが起きている?

労務単価は、公共事業労務費調査というもので調べられて、だいたい2月頃に発表されます。これが3月から設計で使わなければならない新年度の設計労務単価です。

実は、日本では毎年1~5%程度の労務費が上がっています。なぜかというと、人手不足のなかでも建設工事が円滑に行われるために公共工事の賃金を上げてるんです。平成25年度には15.1%も上がりました。

令和3年はそれほど上がりませんでしたが、例えば、東京都の「普通作業員」は21,500円から21,600円に上がっています。0.5%程度の値上がりですね。全国全職種単純平均では対前年度比1.2%の引き上げだったそうです。

これが急激なインフレと判断されて、国交省が「今年はインフレスライドできます。発注者と受注者は対応してください。」という通達を出すのです。

実際に急激なインフレなのかは分かりませんが、施工業者さんに少しでも適正な価格で工事してほしいための措置なのです。

全体スライドと単品スライドとの違い

3つのスライドの違いを表にまとめてみます。

毎年すべての工事が対象であるインフレスライドが一番お目に掛かりますし、インフレスライド以外はそんなのあるんだ~程度でいいと思います。

項目全体スライド単品スライドインフレスライド
対象工事工期が 12 ヶ月を超える工事
(比較的大規模な工事)
すべての工事すべての工事(残工期が2ヵ月残っているもの)
趣旨比較的緩やかな価格水準の変動に対する措置特定の資材単価の急激な変化に対応する措置急激な価格水準の変動に対応する措置
変更対象契約締結から12ヵ月経過後の残工事分の資材、労務等工事の総価に大きな影響を及ぼす資材のみ(鋼材、燃料など)賃金水準の変更がなされた日以降の残工事分の資材、労務等
受注者の負担残工事費の1.5%対象工事費の1.0%残工事費の1.0%
再スライド可能なし可能

受注者の負担1%ってどういうこと?

残工事費の1%までは施工者負担となり、1%を超える額について増額変更するのはなぜなんでしょう。

これがスライド制度の分かりづらいところですよね。

インフレスライドのイメージ図

簡単に説明しますね。

建設工事は、工期が長期にわたるため、その間の事情の変更に左右されることもありますが、通常、合理的な範囲内の価格の変動は契約当初から予見可能なものであるとして契約金額を変更する必要はないという基本的な考え方があるのです。

それでも、通常合理的な範囲を超える価格の変動については、受注者だけにその負担を負わせることは適当でなく、発注者と受注者で負担を分担すべきものであるとの考えでスライド制度が制定されています。

その受注者が負担すべき金額が「残工事費の1.0%」なのです。つまり増額分が1%に収まってしまえば全て受注者の負担ということで、増額変更はありません。そういうときもあります。

カミノ
カミノ

建設業者が経営するうえで深刻な影響がないよう定められた数値が残工事費の1.0%です。

特例措置との違い

インフレスライドと似たような制度に、通称「特例措置」と呼ばれるものがあります。インフレスライドと同時に通達されるものです。

インフレスライドは3月から適用される新労務単価を契約金額に反映させるものですから、2月以前に積算したものが対象になるはずです。しかし、積算時期まで細かく分けてルール化しようとすると大変なので、通常は「3月より前に契約された工事」をインフレスライドの対象としています。

そうすると、3月以降に契約するものは2月までの旧労務単価を使っていたとしてもインフレスライドの対象とはなりません。そこで「特例措置」の出番です。

特例措置は旧労務単価を使っている契約が対象となり、新しい単価に契約変更できる制度です。

3月以降に契約するということは、そもそも3月からの新労務単価で施工してもらうのが至極真っ当ですから、発注者が変更増額を全額負担します

これがインフレスライドと特例措置の違いです。契約日が1日違うだけで、業者さんが金額を負担するかどうか決まるんですよね。ルールの運用ってそういうもんですけど、気持ちが悪いですよね( ˊᵕˋ ;)💦

1億円の工事なら1%でも100万円です。大きいですよね。

ちなみに、特例措置は、設計業務委託等技術者単価を使っている業務委託にも適用します。工事以外の設計技術者や肉体労働をする技能労働者にも適正な賃金を支払いましょうという意図でしょう。

スポンサーリンク

協議から変更契約までの流れ

実施フローはこちらのようになっています。

インフレスライドの運用マニュアルより

この実施フローは国交省の「インフレスライドの運用マニュアル」に規定されています。各自治体でも運用マニュアルを作成していると思うので、よく読んで実施していきましょう。

①スライド協議の請求をする

まず、「インフレスライドが今年もありますよ」と業者にお知らせします。

そして、業者から請求してもらいます。相手がよくわかってなさそうなら、インフレスライドの説明をして「だいたい○○円増額になるかもしれません。いついつまでに様式1-1、1-2の請求書を出してください」と促しましょう。

請求するときに、変更請求概算額と概算残工事請負代金額を書かなきゃいけないのですが、市役所の工事では、業者任せにすると事務が進まないことが多々ありますから、自分でさっさと積算してみて、金額を教えてあげましょう。

逆に役所の担当者がよくわかってなさそうなら、業者側から「これって○○までに○○しなきゃいけませんよね?」とか「増額は○○円くらいだと思いますが、簡単に積算してもらえたりしませんか?」と聞いてみましょう。

概算なので適当でいいです。
 

それから「スライド額協議開始日の通知」とか謎な手続きもありますが、気にしなくていいです。

カミノ
カミノ

最初に協議書を交わしておいて、金額変更するのは数量が確定する工期末になります。

②基準日を決める

運用マニュアルには「基準日は請求日を基本とするが、これにより難い場合は、請求日から 14 日以内の範囲で定める。」と書いてあります。

そもそも新労務単価を反映させたいのですから、3月になってすぐに請求してもらって協議するのが当然だと思われます。実際はそれで構いません。

しかし、ひとつ頭の片隅に置いてほしいのですが、インフレスライドは労務単価だけでなく資材単価の変動も反映させるということです。つまり、3月に労務単価が1%上がったとしても、もし5月に物価上昇が10%見込めるのなら、受注者としては基準日を5月以降にするべきではありませんか?

このように実は物価動向を考慮し、タイミングを計った方がいいときもあります。

まあ、こんなことはめったに起きませんから、通常は3月もしくは4月頃に早々に基準日を設定して協議書を交わしておいていいと思います。

カミノ
カミノ

再スライドも可能ですからね。

③出来高を算出する

インフレスライドの対象は「残工事分の資材、労務等」ですから、既に施工が終わっている部分は、変更の対象とならず計算から省く必要があります。

これがメンドクサイ(´;ω;`)

市役所の工事でインフレスライドの対象となるものは、契約繰り越しと呼ばれるものが多いです。新年度の工事を2月までのうちに契約して、予算を繰り越す方法です。4月から工期をしっかりとれるので、計画的に工事するときなどで用いられます。

この場合は、すべての施工が残っているので、基準日時点での出来形数量を考える必要はありません。楽ですよね٩(ˊᗜˋ*)و

それとは別に、年度をまたいで施工をしている工事は、既に施工している部分を出来形数量として算出しなければなりません。大変です。

出来形数量による出来高確認についてはマニュアルに沿っておこなってください。

ポイントとしては、あくまで受注者の金額負担を減らすための措置ですから、出来高確認のために厳格に書類を求めたりして負担を増やしてはいけません。無駄な作業はやめさせましょう。

④変更契約をする

残工事の数量が分かれば、あとは、工期末に変更契約をするのみです。

最終的な数量が確定するまで待つことになるので、最後の金額変更のときにインフレスライド分も計算して同時に金額変更します。

スポンサーリンク

おわりに

概要を説明しただけなのに、大変長い文章になってしまいました。しかもわかりづらい…。頑張ったのに(´;ω;`)

一応、私が説明したところを理解してくれれば間違ったことにはならないはずです(;´・ω・)

実際の運用は細かいルールがありますので、運用マニュアルを読んで対応しましょう。自治体によってルールが少し違う場合もありますしね。

カミノ
カミノ

最初の通知や協議を忘れていると、いろいろと面倒ですので、4月頃までに忘れずに協議しちゃいましょう。

では、今日はこのあたりで。

またぬん(*’ω’*)ノ

コメント

タイトルとURLをコピーしました