道路工事施行承認の中で1番多いのは「歩道の切り下げ」です。
ここでは概要と、職員がチェックすべきポイントを解説します。一般的な歩道切り下げであってもチェック項目は非常に多いことが分かると思います。頑張って勉強しましょう。
※トップ画像はヒライ エクステリアのWebサイトより引用しました。
承認工事(道路工事施行承認)とは?
承認工事(施行承認)は、道路法第24条に基づき道路管理者以外の人が道路構造を変えるような工事をできる制度です。私人などが自費で工事をするので自費工事と呼ばれることもあります。例えば、民地への車の乗入れのために歩道を切り下げたいとかガードレールを撤去したいとか街路樹を移植したいとか。
詳しくは↓の記事をご覧ください。
歩道切り下げの概要
歩道の切り下げは、車道から民地に乗り入れるために歩道の構造を造りかえることをいいます。道路形態によってさまざまなパターンがありますが、まず、歩道には大きく①フラット形式、②セミフラット形式、③マウントアップ形式の3種類があり、歩道と車道の高さが違います。マウントアップの歩道で乗入れ口をつくるときには高さのすりつけが急勾配になりますね。
そして、植樹帯やガードパイプがあれば撤去しなきゃいけないし、街路樹は別の場所に移植してもらいます。側溝があれば車両荷重に耐えられる車道(横断)タイプに替えてもらうとか側溝蓋をコンクリート現場打にしてもらうとかの措置が必要ですね。
セミフラット形式で歩道切り下げをするときの平面図と横断図、正面図はこんな感じです↓
写真のほうがわかりやすいですかね。マウントアップの歩道切り下げはこんな感じです↓
施工前↓
施工後↓
こちらのWebサイトから引用しました↓ 施工実績がたくさん載っていて分かりやすいですね。
歩道切り下げ工事 NO.775 – 埼玉の格安外構・エクステリア工事ならヒライ エクステリア
申請書類
申請書類は自治体によって多少違いますが、基本的には申請書+写真+工事内容がわかる図面が必要になります。手書きとかExcelで線を書いたような雑な図面を出してくる申請者さんもいますが、職員側が妥協せずしっかりと基準に適合しているか判断できるものを提出してもらいましょう。
各自治体のWebサイトを見てもらうのが一番いいのですが一般的なものを説明しておきますね。
・道路工事施行承認申請書
申請書です。
・位置図(案内図)
周辺状況がわかるもの。住宅地図などでいいです。
・平面図
図面はすべて「現況」と「計画」がわかるものです。乗入れ幅の基準を超える特例の場合は車両の軌跡図も必要ですね。
・横断図、縦断図(正面図)
歩道の幅員や勾配・形態などがわかるもの。
・構造図
舗装構成や歩車道境界ブロック、側溝の構造等がわかるもの。
・保安図
交通規制の方法を図示したもの。必要に応じて。
・現況写真
施工する場所がわかるもの。
このほかにも、誓約書や公図関係や利害関係者(?)の同意書を必要とする場合もありますね。
歩道切り下げのチェックリスト
さて、職員がチェックするべき項目を説明していきます。
まずは一般的なものから。
項目 | 説明や根拠 |
---|---|
✅申請書が適切か | 申請書の欄が適切に埋められているか。 |
✅添付書類に不足はないか | 自治体で定める添付書類がすべて足りているか。 施工内容がわかるものが揃っているか。 |
道路種別・路線計画など
項目 | 説明や根拠 |
---|---|
✅道路の種別 | 国道、県道、市道、里道、私道 |
✅重点整備地区の特定道路に該当するか | 移動円滑化基準の適用可否 |
✅開発行為に伴うものか | 都市計画法 |
✅大店立地法に伴うものか | 大規模小売店舗立地法 |
・道路の種別
市役所であれば、市道と里道だけが対象です。国道、県道はそれぞれの管理者に申請をお願いします。道路種別についてはこちら↓の記事で解説しています。
・重点整備地区の特定道路に該当するか
バリアフリー法による重点整備地区のなかで特定道路に指定された道路は、『移動等円滑化基準』や自治体の条例への適合が義務付けられます。『道路の移動等円滑化に関するガイドライン』も確認したほうがいいでしょう。
ざっくり言うと、歩道の形式はセミフラットで透水性舗装が原則となり、横断勾配は1%(標準は2%)となったり、視覚障害者誘導ブロックをつけることになります。
・開発行為に伴うものか
開発を伴うものであれば、開発区域との整合性なども確認することになります。まあ、開発でなくても対象地の土地利用はチェックしますけどね。開発区域→開発許可、開発区域外→承認工事のイメージです。施行承認と平行して、都市計画法第32条の規定に基づく協議と同意をすることになります。
・大店立地法に伴うものか
大規模小売店舗立地法が関係するものは私も経験は少ないのですが、前面道路を大きく造りかえることもあって安全対策や渋滞対策を警察と協議することが必要となりますので、適切な協議と意見が反映されているかをチェックすることになるでしょう。
歩道の切り下げ構造の基準
次に構造についてチェックします。
まずは、設計基準について説明します。一般的な歩道の構造は、『歩道の一般的構造に関する基準』により設計します。とくに歩道の切り下げについては国から『道路法第24条の承認及び第91条第1項の許可に係る審査基準について』の別紙-1『承認工事審査基準(案)』により示されていて、実際にはほぼコピーした自治体毎の審査基準が定められています。しかし、これは平成6年に行政手続法が施行されるから承認基準をきちんと作らないといけないことになって、国がお手本を示した一般的な基準案にすぎません。後ほど述べますが、この基準通りに審査すると道路の実情にそぐわなかったりして沿道利用が阻害されるおそれがあります。道路はみんなに使ってもらうためのモノ。このことを念頭において弾力的に運用できる基準を策定しましょう。
また、先述しましたが、バリアフリー特定道路の場合は、『移動等円滑化基準』や『道路の移動等円滑化に関するガイドライン』や自治体の条例をもとに設計してください。
乗入れの箇所
項目 | 説明や根拠 |
---|---|
✅開口部は1箇所か | 原則1箇所 |
✅開口部が2箇所となる根拠は適切か | |
✅開口部は禁止箇所ではないか | たくさん禁止箇所があります |
✅既存開口部を閉塞しているか | |
✅乗入れは車道中心線に直角となっているか | 原則ね |
・開口部は1箇所か
乗入れのための開口部は原則1つの敷地に対して1箇所です。コンビニ・ガソリンスタンド・大型倉庫・車両基地など、車両の乗り入れが多い大型店舗などは1箇所にすると逆に危ないということで2箇所まで認めている自治体があります。その場合は入と出を分けるとか、2つの開口部の間は○mとりなさいとか、色々とルールがあると思います。
・開口部は禁止箇所ではないか
国の承認工事審査基準(案)をもとに禁止箇所が定められていますが、ここはちょっと揉めるところですね。乗入れ口をそこにしか作れないんだよ!ってパターンもあるからです。そんなときは仕方ないよねで承認していいのか、慎重に判断するべきでしょう。自治体によっていろいろありますから変な事は書けません……💦国の示す禁止箇所は次のとおり。
- a 横断歩道の中及び前後5m以内の部分。
- b トンネルの前後各50m以内の部分。
- c バス停留所、路面電車の停留場の中、但し停留所を表示する標柱または標示板のみの場合は、その位置から各10m以内の部分。
- d 地下道、地下鉄の出入口及び横断歩道橋の昇降口から5m以内の部分。
- e 交差点(総幅員7m以上の道路の交差する交差点をいう。)の中及び交差点の側端または道路の曲がり角から5m以内の部分、但しT字型交差点のつきあたりの部分を除く。
- f バス停車帯の部分。
- g 橋の部分。
- h 横断防止柵、ガードレール及び駒止の設置されている部分、但し交通安全上特に支障がないと認められる区間を除く。
- i 交通信号機、道路照明灯の移転を必要とする箇所、但し道路管理者及び占用者が移転を認め、申請者が移設をする場合は除く。
・乗入れは車道中心線に直角となっているか
車両が歩道を横切るときは道交法第17条で一時停止義務があり、歩行者の通行を妨げてはいけません。つまり停止して左右確認しやすいように車道から直角にまがるイメージです。なので開口部は車道に直角に設計します。
乗入幅の基準
項目 | 説明や根拠 |
---|---|
✅乗入れ幅は適切か | |
✅切り下げブロックは適切か |
・乗入れ幅は適切か
かなり揉めるところですね。
自治体毎にいろいろな基準が定められています。例えば、敷地の利用形態によって「一般住宅・店舗なら4m、大型店舗なら8m以下」みたいなパターンもあるし、乗入車両に着目して「普通自動車なら4m以下、大型自動車なら8m以下」みたいなパターンもあります。
基準をはずれるときは、土地利用計画図・軌跡図を作ってもらい、実情にあった必要最小限の幅で設計してもらいましょう。
並列駐車される場合も1台分の幅では足りないので揉めます(;´・ω・)基準をしっかり作っておいた方がいいです。(歩道がある道路で、道路上で転回するような土地利用計画はやめてほしいですけどね)
民地側からすると少しでも使いやすいように広く開口したいところですが、歩行者を守るために幅の基準が設けられています。開口を広くすると一時停止せずに(左右確認せずに)斜めに進入することができてしまい大変危ないのです。「歩行者が危なくないように」という意識は申請者側にはほとんど無いので、役所の考え方と衝突することもよくありますが役所側は譲ってはいけないところだと思います。
たまに「狭い!」と文句を言ってくる人もいますが、普通車なら4mあれば余裕ですよね。3.5mよりも狭い自治体もあります。もし縁石を踏んでしまうのなら運転が下手と言うよりスピードをゆるめずに、一時停止&左右確認していないのだと思います。
・切り下げブロックは適切か
斜めのブロックを何段で切り下げるか(すりつけるか)の話です。通常は1段(製品長さ60cm)ですが、2~3段で切り下げる地域もあると思います。これはブレる必要がないところなので明確に決まりを遵守しましょう。踏んじゃう?知らんがな。個人的には乗入れ幅を適切にとって1段切り下げで良いと思いますが、踏まれると傷みやすいので悩ましいところです。
舗装構成と舗装厚の基準
項目 | 説明や根拠 |
---|---|
✅舗装構成は適切か | |
✅特殊な舗装で原型復旧しているか | タイル・インターロッキングブロックなど |
・舗装構成は適切か
車道と同じ舗装構成にしなければなりませんので、一般的には路盤2層分を作ってもらいます。これも幅と同様で、乗入車両によって違いますから画一的な基準を作るのは難しいですよね。なるべく安全側で設計した方が良いと思いますね~。だって5年後に利用者(施工した人)から「舗装がボロボロです!はやく修繕してください!」とかクレームいれられたらたまったもんじゃないですからね。
大型車が乗り入れる予定ならさらにアスファルト舗装を2層にするとか、コンクリート舗装にするとかの場合もあるかと思います。
高さと勾配の基準
項目 | 説明や根拠 |
---|---|
✅歩道の高さは適切か | セミフラットなら車道から5cm |
✅縦断勾配は5%以下 | やむをえない場合は8%以下 |
✅横断勾配2%以下が幅1m以上あるか | 透水性舗装なら1%以下 |
✅横断勾配のすりつけ部は15%以下 |
・歩道の高さは適切か
セミフラット形式なら歩道は車道から5cm高くします。まあこれは原則論なので、実情にあわせて当然乗入れ部の前後と舗装高さが合っていて勾配がとれていることのほうが重要ですね。
・横断勾配2%以下が幅1m以上あるか、すりつけ部は15%以下
文章で説明すると難しいですね💦マウントアップ形式をイメージしてください。通行者のために2%以下の平坦部をできるだけ幅広く確保しようよってことです(最低幅1m)そして、すりつけ部が急勾配すぎても通行が危ないので15%以下にしましょうってことです。
その他
項目 | 説明や根拠 |
---|---|
✅視覚障害者誘導用ブロックは適切か | |
✅植樹帯の撤去は適切か | 街路樹は原則、移植です。 |
✅側溝の改良は適切か | 車両荷重に耐えられるように。 |
✅ポールコーンの設置は適切か | |
✅その他道路付属物の移設・撤去は適切か | |
✅雨水排水はできるか |
それぞれ適切な設計になっているか確認しましょう(投げやり)。だって自治体毎にルール違うんだもん。
・植樹帯の撤去は適切か
植樹帯は撤去してもらいますが、前後に植樹帯つまり低木があると車道に出る時に見通しが悪くなるおそれがあります。道路管理者が伸びたらすぐ剪定できればいいのですが、そうもいかないのが実情です。お互いのために承認工事のときに前後をもう少し後退させるのも必要かもしれません。
ちなみに街路樹(中高木)は原則、別の場所に移植してもらいます。
・側溝の改良は適切か
本当は躯体ごと横断タイプとかに替えてもらったほうがいいのですが、サイズがあわなかったりしますし、普通車くらいなら壊れるようなものではないので、蓋のがたつき・破損防止のために、上部を切って現場打にすればOKの自治体もあるかと思います。個人的には車両用蓋(?)にするとかではなく現場打にするべきだと思います。
・ポールコーンの設置は適切か
ポールコーンを設置するときはどんなときでしょうか。隣地の開口部と近すぎて、間に縁石の島を残さなきゃいけないとき視認しやすいようにポールコーンを立てたり、歩道が幅広すぎて車両が歩道に入って違法駐車したりしないように路線全体で開口部横にポールコーンやボラードを立てていたりします。
対応するなかで注意すること
最後になりましたが、設計論ではなく、対応するなかで注意するべき手続対応論を書いておこうと思います。
・なるべく事前相談をしてもらったほうがいい。
役所側は融通をきかせることができませんから、土地利用計画が確定する前に、あらかじめ相談を受けて承認基準などをお伝えした方がトラブルは防げます。
・事前相談では一般論のみを伝える。
本申請をされる前であれば、「○○○(特殊なケース)は○○○してもらえれば承認下ります」みたいな言い方はNGです。まず、大前提として事前相談では一般論だけしか言わない方が良いです。まだ本申請をされていないのにその申請が通るか通らないかは言ってはいけません。「言った・言ってない論」になっていまいます。特殊なケースは本申請をしてもらってから審査をすることをあらかじめ伝えましょう。
・相談メモを残しておく
慣れるまでは先輩や上司に入ってもらって2名体制で対応するのが望ましいですね。いずれにしても相談内容について、話した内容についてをメモに残しておきましょう。メモはPCのメモ帳やWord・ExcelのようなPCデータで整理しておくことが大事です。
では、長くなりましたがこれで承認工事(歩道切り下げ)の解説は終わりです。
お役に立てたら幸いです。_(._.)_
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