街路樹の管理方法

道路

こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。

ビッグモーターが色々と不祥事発覚して、除草剤を使い店舗前の街路樹を枯らしていたことが話題になっていますね。

ここでは当事件に触れながら、実際に道路管理者がどのように街路樹を管理しているのかを簡単に書いてみようと思います。(市役所メインのお話)

カミノ
カミノ

ちなみに公園や河川敷の樹木もほとんど同じように管理しています。

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事件の概要

まずは事件の概要です。

中古車販売大手ビッグモーターが事故車の修理のときに車をわざと壊して保険金を水増し請求していたことが分かり、さらに内部告発などで経営体制のヤバさが連日報道されています。

そして、全国各地の店舗前で街路樹が枯れたことが相次いで報告され、国交省や自治体は状況を調べ始めています。

除草剤を何者かが撒いているようすがGoogleストリートビューに写り込んでいてネットに衝撃が走りました↓

この街路樹事件については、ビッグモーターはWebサイトで事実と認めて謝罪しています。

ご指摘を受け当社で調査したところ、当社の複数店舗におきまして、過去に店舗で清掃活動の際に使用した除草剤等による影響により、街路樹や植え込みが枯れた可能性が高いことが判明いたしました。(中略)除草剤等による影響で枯れた可能性の高い街路樹や植え込みにつきましては、今後、行政のご指導をいただきながら、外部専門家にも相談のうえ、土壌の入れ替えや植樹など、当社として原状回復に向けた手続きを行ってまいります。

当社店舗周辺における街路樹の原状回復について|BIGMOTOR(ビッグモーター)

街路樹とは?

街路樹とは、道路の歩道や中央分離帯に植えられた樹木のことをいいます。さすがにこれは皆さんご存知だと思います。

法令上は、道路の構造の保全、安全かつ円滑な道路の交通の確保その他道路の管理上必要な施設として、道路管理者が設置する「道路の付属物」の一種です。(道路法第2条第2項)

道路付属物を壊すことは道路法違反となります。

ニュース記事ではこのような記述がありました↓

今回の事件は器物損壊罪に問われる可能性があり、国や自治体によっては土壌から除草剤成分が見つかれば、警察に被害届を提出することを検討しているそうです。

国交省の担当者は「道路法に違反している可能性も考えられる」と指摘する。道路への落書きが罰せられるのと同じで、街路樹が道路の付属物とみなされ、わざと損傷させたと認められれば、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる場合がある。

ビッグモーター前で枯れる街路樹 除草剤が事実なら…問題点は? | 毎日新聞 (mainichi.jp)
カミノ
カミノ

実際は植えなおしをしてもらって解決でしょうか。丁寧な伐根、土の入替えも必要なのでかなり費用は掛かりますね。

街路樹台帳

街路樹が店の前だけ枯れているのに道路管理者は気づかないのか…?という疑問がありますが、さすがに気づくかなーと思います。

国道や県道などは街路樹の数と位置を把握していて、しかも毎年剪定や点検があるのでそのときに業者から「不自然に枯れている高木と低木がありますよ」という報告が上がってくると思います。でも、犯人が確定できないですし、枯れた木を伐採して終わるしかないのかなと。ヒアリング程度はあるかもしれませんが、今回のような大々的な報道が無ければ特別な調査はされないかもしれません。

道路管理者は高木、中木、低木の3種類に分けて数量などを管理しています。

ちなみに神戸市の種類別のトップ5はこちらです↓(本数は平成29年3月時点のものです)

種類高木
(3m以上)
中木
(1~3m)
低木
(1m未満)
本数約21万本約24万本約670万株
1クスノキサザンカヒラドツツジ
2ケヤキトウネズミモチアベリア
3イチョウムクゲシャリンバイ
4トウカエデサンゴジュトベラ
5アメリカフウウバメガシスドウツゲ
神戸市:街路樹に用いられる主な樹木 (kobe.lg.jp)

さて、実務のお話ですが、街路樹を維持管理するためには、市内全域の街路樹の数量×作業単価で予算を確保しなければなりません。つまり、まずは数量を正確に把握する必要があります。

そのために街路樹台帳を作っています。(名称は自治体によって様々)

この街路樹台帳はとにかくまずは数量が分かればいいので、概略的に図面化されたものや路線・エリア毎の数量だけ書かれたもの…ということもあるでしょう。

国や都道府県の場合は、国道・県道の道路台帳がしっかり作られているので、その平面図をもとにある程度正確な「街路樹台帳」を持っていると思いますが、残念ながら数が膨大な市町村道にはそれほど立派な道路台帳や街路樹台帳はありません。

とは言っても、国・都道府県の台帳も紙資料で大変使いづらいみたいで、次第にデータベース化が進んでいる状況のようですね。参考資料:東京都の街路樹管理台帳のデータベース化(道路協会)

診断カルテ

また、市町村ではそこまで手が回っていませんが、国や都道府県では高木1本1本を点検して病気などを持っている樹木の診断カルテを作っているところもあるそうです。

自治体では樹木医を入れての診断というより、対象路線を道路管理者が点検して高木1本ごとの「点検表」や「管理シート」を作ってる自治体もあります。取り組み方はバラバラですね。

街路樹診断カルテ(関東地方整備局)

街路樹の維持管理

実際に業者とどんな契約をしているかというと、ざっくり言うと路線毎に「数量○○本の剪定」みたいに数量確定の通常発注する方式と、数量未定の単価契約を結ぶ方式があります。まあ作業は似たようなものです。

では、おもな作業内容を簡単にご紹介していきます。

剪定と伐採

混同している人が多いんですが、剪定と伐採は全然違うものです。

剪定は枝を切る作業。
高木であれば1~5年周期で切り、低木であれば毎年切ります。苦情が入ってバタバタ対応することも非常に多いです。

伐採は樹木を根本から切る作業。
病気で倒れるおそれがあるときとか、工事で支障するので植え替えるときとかに伐採をします。

ぜんっぜん意味が違います。

除草

樹木の周りには雑草が生えるんで除草しなければいけません。低木の高さで一緒に刈ったり、根っこから抜いたり、緑地帯を草刈り機で切ったり。

街路樹の剪定とかとセットでやるときもあれば、縁石際に生える雑草を何キロも除草することもあります。後者は街路樹管理とは別物ですね。

防除と害虫駆除

病害虫防除は、害虫や病害の予防のためにあらかじめ薬剤を散布しておくこと。

害虫駆除は、害虫が発生したら駆除剤を散布することです。

点検と診断

近年は倒木事故も多いので、樹木の点検をする機会が増えました。

菌類(キノコ)やウイルスによって病気になっていないか、腐朽が進んでいないかを診断します。

除草剤は使う?

除草剤は農作物への影響が考えられるため原則使ってはいけません。しかし、これからは効率化や予算の節約も考えていかなきゃいけないので、少しずつ解禁されていくのかなーと思います。除草剤は水タンクをもってきて噴霧器でバーッとかけるだけなのでかなり効率化できます。

除草剤を使う場合は農薬取締法などのルールを守りましょう。今回のビッグモーター事件ではおそらくこれらのルールは守られていないはずです。(事前周知しなきゃいけないし)

住宅地等における農薬使用について:農林水産省 (maff.go.jp)

道路管理者以外が剪定していいの?

もちろん道路管理者以外が無断で街路樹を剪定したり、ましてや伐採してはいけません。

例外もあります。緑化サポーターみたいな許可制度ですね。また、通常は道路法24条の「施行承認」によって管理者以外も作業することができます。例えば、新店舗の開発行為で車の乗入口を設けたいときに樹木が邪魔になれば24条で許可を受けて伐採することができます。なお、大抵の場合は別の場所に同じ本数だけ「植え替え」をしなければ許可がもらえないと思います。

お騒がせ中のビッグモーターでもそういう適切な事例があったようです↓

ビッグモーター糸満店、開店時に街路樹10本を移植 道路管理者が許可し、同社が費用負担 南部国道事務所「問題ない」 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)

ただし、「店の看板が見えづらいから」という理由は通らないはずです。道路管理者の権限のほうが強く、道路構造物のほうが優先されるからです。もし街路樹のほうが後に植栽されて、しかも広告看板などに無配慮だった場合は道路管理者に非があるかもしれませんが…。

街路樹に対する思い入れは人それぞれ

さて、最後になりましたが「街路樹」に対して市民がどのように感じているのか、そして、道路管理者がどういう想いで管理しているのかを書こうと思います。

まず、道路管理者の立場ですが(私の場合)、正直どーでもいいと思っています。管理する上では苦情や危険、事故などのデメリットのほうが多いからで、「いや~街路樹があって助かった~!」とか「良かった~!」と思うことはほぼありません。街路樹のメリットや効果は目に見えないものであり、恩恵を感じづらいのです。もちろん適切に管理はするけれども別に無くても構わないという感覚ですね。てゆーか日本の狭い道路には街路樹はふさわしくないですし。歩道が広ければいんですけどね…。

さて、市民の意見はどうでしょう。これは本当に賛否両論ありますね。「日陰になるから必要」「景観が好き」という好意的な人もいれば「落ち葉掃除が大変」「トラックに枝が当たる」という否定的な人もいます。ただし、今回のような除草剤で勝手に殺すってのは言語道断。このような街路樹を快く思ってない人間もいるってことです…。

想いは人それぞれ、都市政策の難しさを最も体現しているのが「街路樹」だと思います。

まちづくりを考える時は樹1本から考えることが必要なのです。

(どういう締めくくりだ…?)

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