こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
橋梁の基礎知識を知りたいな~という方向けに、
ここでは橋梁の各部位の名称を解説したいと思います。
橋梁とはなんぞや?という解説記事はこちらからどうぞ↓
橋梁の諸元(長さの定義)
まずは橋長などの諸元を説明します。
見た目の長さの定義ですね。
橋長
橋長とは、両端橋台のパラペット前面の間の長さのこと。パラペット(胸壁)とは、桁を横から支えている橋台の上部の出っ張りのことです。伸縮装置の有無やパラペットの位置が分からないことも多いので、図面が無いときは現地の手掛かりからそれっぽいところを測っています。
桁長
桁長とは、上部構造の長さのこと。
支間長
支間長とは、支承と支承の間の長さのこと。スパンとも呼ばれます。支承だけで荷重を支えるので、支間長は構造計算上非常に大事ですよね。
遊間
遊間とは、桁と橋台のパラペットや桁同士がぶつかって損傷が起きないよう設けられる隙間のこと。
桁の温度変化・乾燥収縮、また、地震による変形と移動も考えられることから、文字通りアソビの部分をつくっているわけです。遊間の値から伸縮装置の選定をしたり、耐震補強でも設計上大事な数値になります。
桁下高
桁下高とは、桁下の空間の高さのこと。桁からHWL(計画高水位)までの距離です。
HWLに余裕高を加えた高さで設計します。もし余裕が無ければ、洪水時に流木などで橋梁が壊されてしまうからですね。
高架橋のように下が路面の場合は、桁から路面までの高さのこと。また、カルバートタイプの場合は、上図で示すように桁から通行空間までの高さを桁下高と呼ぶこともあります。ややこしいですね(;´・ω・)
全幅員
全幅員とは、橋梁の幅のことです。見たまんまの地覆まで含んだすべての幅員をいいます。
有効幅員
有効幅員とは、車両や人が通るために使う幅のことです。
構造計算や河川占用では全幅員を用いますが、交通の観点からは有効幅員が重要ですね。
上部構造
上部構造とは、歩行者や自動車などを直接支持する部分(床版や桁など)のことです。よく「上部工」と言われます。
市町村でおもに管理している鋼橋とコンクリート橋のそれぞれの上部工の模式図はこんなかんじ。
主桁・主構
主桁・主構とは、上部構造全体の荷重を支持して、下部工に伝えるメインの桁のこと。鋼材のときは主構と呼ぶこともあります。
上部工は平らなのでイメージしにくいかもしれませんが、荷重を支持する「縦」の部材です。断面形状によってI桁と箱桁、材料によって鋼桁、鉄筋コンクリート桁、PC桁などがあります。
横桁
横桁とは、主桁が適切に荷重を分担できるようにするために横断方向につくられる桁のこと。
「縦」な部材を「横」に張るイメージです。
縦桁
縦桁とは、主桁に沿って、主桁の荷重を分散させるためにつくられる桁のこと。普通は主桁だけで負担します。
床版
床版とは、橋の上を通る車両の重みを橋桁や橋脚に伝えるための板のこと。文字通り、床ですね。コンクリート橋の場合は、桁と床版が一体化していることが多いので、あくまで役割によって「ココの部分は床版」と呼んでいるだけです。
コンクリート床版に水が侵入すると劣化が早まるので、橋面防水・床版防水と呼ばれる加工をします。床版の上に防水シートを貼ったり塗ったりして、その上に不透水の密粒度アスコンを敷きます。劣化したアスファルトに染み込んだ雨は、床版の上の不透水層から、埋設された排水用ドレーンを通って排水桝もしくは直接排水管に辿り着きます。
横構・対傾構
横構・対傾構とは、鋼桁橋において、橋の立体的な形状を保ち、風による横方向の荷重に抵抗するために桁をつなぐ鋼材のこと。対傾構は上と下を斜めにつなげます。
ここまでが上部工のメイン部材です。他の付属物も説明します。
上部構造のその他
その他を解説します。橋じゃない部分もありますが。
舗装
舗装とは、床版の上にアスファルトなどを敷設し、車両の通行性を確保したものです。
床版むき出しだと床版が損傷してしまいますからね。厚みをかさ増す必要があるときはコンクリートを打ってからアスファルト舗装が敷かれたり、床版の上に砕石層があるときもあります。古い橋や図面が無い橋は、どれくらい厚いのか、薄いのか、掘ってみないとわかりません( ゚Д゚)
橋梁の舗装はふつうの舗装とは設計の考え方がまったく違いますから注意しましょう。
地覆
地覆(じふく)とは、橋の側端部で橋面より高くなった部分のこと。高欄の基礎でもあるし、雨水側溝の機能もありますし、車両誘導の意味もあります。
地味に「地覆」という言葉は業務でよく聞きます。
高欄
高欄(こうらん)とは、橋から人や車両が落ちないように地覆に設置される柵のこと。ガードレールなら防護柵とも言います。欄干(らんかん)と呼ぶこともありますが、欄干は手すり全般のことですね。
高欄は景観におおきな役割を果たすので観光地ではデザイン性がたかく豪華な高欄が採用されたりします。個人的にはふつうのシンプルでスタイリッシュなものが好きです。
親柱
親柱(おやばしら)とは、高欄の端っこに設置される高欄よりも一回り大きな柱です。河川名や橋名、竣工年月が記されていることが多いと思います。
モニュメントが乗っていたり、派手な装飾が施されていることもあり、橋を渡る人を楽しませてくれますね。
一般的には普通のコンクリート製や高欄と同じ材質だったりするので補修は簡単にできますが、自然石などを使っている立派なものもあるみたい。
落橋防止装置
落橋防止装置とは、地震時に上部工が落ちないように設けられる装置です。落橋防止システム。略して落防(らくぼう)と呼ばれたりします。
さまざまなタイプの落橋防止装置があるんですが、道路橋示方書によって横変異制限の考え方などが微妙に違っていて設計思想を理解するのはややこしい分野です。
一番原始的でわかりやすいのは桁と桁、もしくは桁と橋台をPCケーブルやチェーンで繋いでいるもの。他には、下部工にコンクリートでコブをつくって地震時に上部工が移動しても落ちないようにする方法もあります。
排水桝(ます)
排水桝とは、橋に降った雨水を集めるマスです。雨水は、路面の端にある排水桝に入り、排水管を通って、そのまま下の河川などに落とされます。
また、雨水が地覆から伝って下部工にいかないように、「水切り板」と呼ばれる鋼材を地覆の裏に設置したりします。水を遮るだけのただの板ですね。
雨水がコンクリートや鋼材に長時間触れていると劣化を引き起こしますので、雨水は橋梁の天敵といえますが、排水桝はよく土やゴミで埋まってしまうので、できるだけこまめに掃除しましょう。
添架物
電気や通信、水道、下水道、ガスなど、普段は道路の下に埋設されている土木インフラたちも河川を渡るために橋梁に添架されることがよくあります。
鋼管やステンレス管、専用のポリエチレン管などを取付金具によって橋梁に添架するのですが、地覆の外側や桁の裏側にアンカーを挿して取付金具を設置することが多いと思います。橋台をぶちぬいているタイプも見かけますが、あまりよくないですね(;´・ω・)管に扇子みたいなものがついているときがありますが、それは歩行防止柵と呼ばれるネコちゃん避け(人避け)でございます。
何の管なのか、一目で分かるように明示してください。
取付道路
取付道路とは、橋の前後の道路のことです。わざわざ取付道路と呼ぶのは、一級河川を渡すときなど橋梁を高く設置するために、広く盛土をして路面を高くしている部分のことです。道路のところは単に「土工部」もしくは「一般部」とも呼ばれます。例えば水道管を添架するときは、「埋設している土工部から橋台際で露出させ橋に添架させる」という言い方をします。
踏掛版
踏掛版(ふみかけばん)とは、土工(道路)側が沈んで橋との段差ができないように、土工側と橋台の上にかぶせるように設置される板のこと。踏掛版をもたない橋もたくさんあります。
舗装されてしまえば隠れてしまいますので、図面がないかぎり現場で寸法を確認することはできません。イマイチ知られていないマイナーな存在かもしれませんね。
支承と伸縮装置
次に、支承と伸縮装置です。上部工としてひとまとめにされるときもありますが、ここでは別に分けます。
補修工事では、劣化しやすい支承と伸縮装置の補修をしっかり考える必要があります。荷重を支える支承がダメになれば地震で甚大な被害をうけてしまいますし、伸縮装置はここがダメになれば雨水が侵入して支承を劣化させますし、上部工と下部工の躯体をボロボロにしてしまうのです。そういう理由で、維持管理では重要な部分といえますね。
支承
支承とは、下部工と上部工の接点に設けられ、荷重を下部工に伝達する部材です。
驚くことなかれ、橋梁は上部工で支えた何百tもの荷重を、支承という点によって下部に伝えているのです( ゚Д゚)
ゴム製の「大型ゴム支承」や鋼材の「ローラー支承」「線支承」など、さまざまな支承がありますが、地震などで一番に傷みやすい場所でもありますし、日々耐久性を高めた製品が開発されていますよ。
おまけな話ですが、支承は「沓」とも呼ばれます。沓は「しゅう」と読むんですが、土木以外では使わない漢字ですよね。(建築では沓摺という用語がありますが。)
支承が乗る台を沓座(しゅうざ、くつざ)と呼んだり、支承の上側を上沓(うわしゅう)、下側を下沓(したしゅう)と呼びます。
沓はパソコンで「しゅう」と打っても出てこないはず。なぜなら本来は「くつ」という読み方が正しいから。くつ→靴→shoe→しゅう、となったのではないかなと私はにらんでおります(`・ω・´)
沓と靴は似たような意味ですから、つまり、支承は橋の靴なのです。
ピカピカの靴を履かせましょう。
伸縮装置
伸縮装置とは、上部工の遊間に設置して、伸縮を可能にして、路面の段差やスキマをなくすものです。伸縮装置はジョイントとも呼びます。
以前は、鋼製のクシ型であるフィンガージョイント(指を組んでるような形だから)が一般的でしたが、今では取り換えのしやすさやライフサイクルコストなどを考慮して、ゴムと鋼材を組み合わせたゴムジョイントが使われることが多くなりました。また、埋設させて上に舗装をかぶせるタイプの埋設型ジョイントも流行っています。
ガタガタに段差ができてるフィンガージョイントをよく見かけますね。
下部構造
下部構造とは、上部構造を支持する部分、つまり橋台・橋脚・基礎のことです。簡単に下部工とも呼ばれます。
橋台(アバット)
橋台とは、橋梁の両端にあって、上部構造を支える台です。また土工部が崩れないような役割もあります。
英語ではabutment(アバットメント)というので、橋梁の専門家はアバットとよく言ってますね。起点側をA1、終点側をA2と名付けます。
下に模式図を載せますが、胸壁をパラペット、翼壁をウイングと呼ぶこともありますよ。パラペットと桁の間に伸縮装置がくるかたちですね。
※図のなかの「基礎」は「底版(フーチング)」と呼ぶのが正しいと思います。
形式に違いがあり、重力式、逆T式、控え壁式、ラーメン式、箱式、盛りこぼし、などのタイプがあります。
河川の流水圧を考えない一方、背面土圧の条件が増えるので、水平支持力と回転抵抗モーメントも重要になりますね。
どんな経緯があったか不明ですが河川拡幅などで、もともとは橋台だったはずなのに橋脚の役割になってるときがあります。現行基準だとアウトになるかもですけど、そのまま使用していることもあるようです(;´Д`)
橋脚(ピア)
橋脚とは、橋台の間にあって、上部構造を支える柱です。支承間を1径間としますから、2径間以上の橋には橋脚が存在することになります。
英語ではbridge pier(ブリッジピア)です。呼びやすいので専門家はピアと呼びますね。起点側からP1,P2,P3~と名付けられます。
※図のなかの「基礎」は「底版(フーチング)」と呼ぶのが正しいと思います。
橋台とおなじように構造によって支え方が違い、T形式、壁式、ラーメン式、柱式、などのタイプがあります。
橋脚の設計断面は通常の荷重にたいしては余裕があるので、大地震時の水平力によって大きさや鉄筋量が決まることが多いです。補修ではコンクリートのひび割れ補修などをおこない、耐震補強では大きさが足りなければコンクリート巻き立てなどをおこなう必要があるので河川締め切りなど莫大な労力とコストが掛かってしまいます。
基礎
基礎とは、橋脚・橋台と一体化しており、荷重を地盤に伝え、構造物を支える部分です。基本的に沈まないように硬い地層(支持層)の上に作られます。
植物をイメージするとわかりやすいかと思います。根っこが基礎ですが、地上に出ている部分が倒れないように根っこを深く広げているように、橋梁も上部工と橋台・橋脚を支えられるだけの深さと大きさが必要になります。
いくつかタイプがありますので、よくある3種類を簡単にご紹介します。
直接基礎
支持層が浅い位置にあるときには、基礎を乗せて固定ができるため、直接基礎という扱いになります。地盤改良をしてから、直接基礎にする場合もあります。
杭基礎
直接基礎が適用できないくらい支持層が深いところにある場合に、杭を支持層まで到達させて固定する基礎形式です。既成杭を打ち込んでいく方法や、掘り上げてコンクリート現場打ちする方法など、杭基礎のカテゴリーのなかにも非常にたくさんの形式がありますから、現場ごとに最適な工法を選ぶことになります。
ケーソン基礎
地上でつくった箱状または筒状の躯体(ケーソン)を設置する基礎形式です。一番安定性があるとされていますが、一般的に杭基礎よりお金がかかります。市町村レベルだとあまり採用されることは少ないと思います。
近年では、鋼管矢板基礎や地中連続壁基礎も普及してきてたり、杭基礎の工法がすごく進化していたり、基礎工法は多様化をつづけています。
基礎形式は、橋梁だけでなく、あらゆる構造物に通じる分野ですから、深く調べてみると大変勉強になると思いますよ!
ボックスカルバートの名称
最後に、ボックスカルバートの各部位の名称を図だけで紹介します。
ボックスカルバートは上部工と下部工が分かれていませんし、支承も伸縮装置もありません。単純明快な構造になっております( ゚Д゚)
ただし、市町村が管理する橋でボックスカルバートはけっこう多いので、部位の名称くらいは覚えておきましょう。
ちなみに、ボックスカルバートは日本語で溝橋と呼ばれたりします。業務のなかでは、ボックスと呼んだり、カルバートと呼んだり様々ですね。
配筋図の記事でボックスカルバートにふれていますので、よかったら参考に見てみてください。
おわりに
ということで、橋梁の各部位の名称を解説しました。
まずは名称から覚えるのが何よりも大事!そして、各部位の役割がなんとなく分かってくると、難解な構造計算やめんどくさい保全業務も少しは好きになるかもしれませんね。
橋梁分野に今から携わる技術者にとって役立つ記事になれば幸いです。
なお、最後になりましたが、この記事の図や写真は、福岡市道路橋補修教本から引用させてもらいました。非常に為になる素晴らしいテキストですので、ぜひぜひ読んでみてください(*´ω`*)
より詳しく具体的なものは、書く気が起きたら書きます(;´・ω・)
橋梁保全にかかわる技術者にオススメな本です↓
では今日はこのあたりで。
またぬん(*’ω’*)ノ
コメント
業務で橋梁図面を扱うことになり、こちらにたどり着きました。
本ページは大変勉強になります。
しかしながら、特に鋼材仕様の橋は「SPL」「EXP」などアルファベットの略称を用いることが多く、何を指すのか迷います。
お時間ありましたら用語略称対比表などをお見せいただけますと幸いです(そのような記事のあるWEB紹介だけでも構いません)。
当方、1級土木施工管理技士取得も目指しておりますので、該当ページも拝見いたします。
むらとしおさん、
アルファベットの略称ですね〜、わかります。
しかし、お求めの用語略称対比表みたいなものはなかなか無いと思います。というのも、略称というのは全てが全国的に統一されたものではないからです。
もちろん全国的に使われている略称もあるでしょうが、発注者ごとに決められた略称、メーカーが自称している略称など様々なものがあります。
ですから、鋼材分野に限らず、コレが決定版!みたいな一覧表は作りづらいのです。
各略称をググればすぐに答えが出てきますから、自分で一個一個調べて一覧表を作るのが一番の近道だと思います。
こんにちは。鋼桁に関する質問です。最近橋の構造に興味を持ち始めたものです。部材の横桁と対傾構の明確な違いがわかりません。ある人は横桁が存在しない鋼橋はないと言っている人や、ある人は床版から直接荷重を受けているものが横桁で受けていないものが対傾構と言っている人(※この場合対傾構しかない橋も出てきますよね。)や上記の図の様に見た目で風通しがよいものが対傾構、風通しがないものが横桁と言っている人もいてよくわからないです。何が正しいのか教えてください。
やちさん、
私はメタルの専門家ではありませんので、参考程度にしてください。
横桁と言えば一般的には充腹断面をもつイメージですから、面でつながっているイメージの「見た目で風通しがよいものが対傾構、風通しがないものが横桁」が正しいと思います。ただし軽量化のために中抜きしている場合があるかもしれません。
横桁を用いずに対傾構の剛性を大きくして荷重分配させている場合もあるので「横桁が存在しない鋼橋はない」は間違いです。
「床版から直接荷重を受けているものが横桁で受けていないものが対傾構」は「直接」のニュアンスが分かりませんが、横桁が床版に接触していない場合もありますからちょっと違うかなと思います。
いずれにしても年代や規模によっても構造や考え方はさまざまなので一概に言い切れるものではないかもですね。