こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
ここでは公共工事では一般的となっている工事成績評定について、その概要を解説したいと思います。
関連記事:工事成績評定の採点方法を解説します
工事成績評定とは?
工事成績評定とは、公共工事において施工状況、目的物の品質等を考査し100点満点で工事の成績評定を行う制度です。
※小規模工事や随意契約は対象外の場合があります。
採点の対象は、次の小カテゴリに分けられており、あらゆる角度から工事を評価することがわかるかと思います。
・施工体制一般
・配置技術者
・施工管理
・工程管理
・安全対策
・対外関係
・出来形
・品質
・出来ばえ
・施工条件等への対応
・創意工夫
・地域への貢献等
・法令遵守等
この小カテゴリごとに点数をつけて、合計100点満点で採点を実施するわけですね。
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実際はこれらの中にさらに詳しい考査項目があり、それぞれで点数化していきます。
なぜ工事に点数をつけるの?
いまや当たり前に工事成績をつけるようになっていますが、昔はそんなことありませんでした。
なぜ工事に点数をつけるのでしょうか?
始まりは、平成12年に制定された「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」通称:適化法です。これによって、タイトルのとおり、入札と契約を適正化すること、施工体制を適正化することが求められました。全国的に試行的な「総合評価方式」の入札と「工事成績評定」が取り入れられ、その後対象も広がり、自治体でも成績評定がルール化されていきます。
さらに「公共工事の品質確保の促進に関する法律」通称:品確法の施行にあわせて、成績表も改良を重ねて、また、安全対策なども重視されて、現在の成績評定の制度となっています。
ということで、総合評価方式の一部としての成績評定制度の大きな目的は「入札と契約の適正化」ですが、成績評定の単独の目的として考えると次の3つかなと思います。
①「施工体制の適正化」=下請けにしわ寄せをしないこと
②「品質の確保」=粗雑工事をしないこと
③「安全対策」=労働者を危険にさらさないこと
つまり、ルールを守ってもらうという当たり前のことですね。私なりの解釈では。また、他にも地域貢献などが盛り込まれています。
国交省は「技術力の向上」を目的に謳っていたりしますが、考査項目を見てみるとそれほど土木的な技術力を測れるものではなく「業者の真面目度」を測るものというイメージです。
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後述しますが、発注側からすると「優秀な業者が落札しやすくなる」という大きなメリットもありますよ。
平均点は何点?
成績表は65点をベースとして加点・減点していく方式です。ふつうに何事もなく工事が終われば70点いきますし、書類をとりあえず漏れなく出していれば75点をとれるかもしれません。
おおよそ平均点は70点くらいでしょうか。市役所では平均が75点くらいのところも多いようです。80点を超えれば高得点と呼ばれ、85点で最優秀でしょうか。90点を超える時もあります。
Webサイトですべての工事評定を公開している素晴らしい自治体もありますので、参考として、福岡市と姫路市のリンクを置いておきますね。
福岡市 工事成績評定結果概要 (fukuoka.lg.jp)
姫路市 公共工事成績評定結果の公表 (himeji.lg.jp)
地域の建設業界内が成熟すれば書類はどんどん良くなりますので点数はどんどん上がっていきます。また、発注機関によって採点の厳格さが違うため甘い自治体は高得点化していますね。
発注機関によって点数にばらつきがあるので、他自治体で○○点をとった!と自慢されてもその自治体の平均点がずいぶん高い可能性もありますから、比べる時は同自治体かつ同業種で比べましょう。
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私はどちらかというと甘めですね。辛くつけて業者から文句言われるのもだるいので。
成績は何に使われるの?
成績は、一般的には、成績優秀者は優良工事(会社)として表彰されたり、総合評価方式の入札で加点対象となったりします。
会社のイメージアップや受注増につながるということですね!
発注側からすると、優秀な業者が落札してくれるので公共事業の安全性と品質が上がり、合理的であると言えます。
総合評価方式の入札では、イメージとしては
①会社の表彰実績
②会社の工事成績評定
③技術者の表彰実績
④技術者の工事成績評定
という項目でプラス評価(技術評価点が上がる)することができます。
※発注機関によって内容はさまざまです。
例えば、入札公告を確認してみて、「過去 2 年間の同一登録工種での工事成績評定点 80 点以上の回数」という内容であれば、“80点”が高評価・低評価の境目であるということです。受注者はその点数以上を狙ってくるということなので、成績評定の際はそこは意識しましょう。
もちろん技術評価点のおかげで価格を逆転して落札することもありますから、そういった意味では点数=お金ですよね。だから工事成績を上げようとするのです。そして、業界が成熟してくると受注競争に勝ち残れない会社は淘汰されていくと思いますので、それを感じ取っている会社は好成績をおさめるために必死になっています。
点数=お金。工事規模にもよりますが、例えば技術評価点1点が100万円に換算できたりします。私は、工事成績評定は「業者の真面目度を測るもの」と思っていますから、業者の真面目度をお金に変換できる面白い制度と言えますね。
それが結果的に施工体制・品質・安全対策の確保につながるのであれば、まあ良い制度だと思います。
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単純な価格競争入札のほうでも独自で成績加点を採用する自治体もあるようです。
発注者の本音
さて、せっかくなので工事成績評定の制度について、個人的に思うこと(愚痴)もざっと吐き出しておきますね。
めんどくさい
まず、めんどくさい制度ですね( ゚Д゚)これが一番に思うこと。
業者の成績とかどうでもいいし。
「ふざけんな!こっちは生活が掛かってるんだぞ!」と怒る業者さんもいるかもしれませんが、いや逆に工事ごとに発注者の成績をつけろって10ページ分の採点項目を渡されたら「は?目的物できた後にそんなんどうでもいいやん笑」と思うはずです。
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発注者の本音だけど、こんなこと言ったら怒られちゃいますね。
建設業界の更生のためだけど…
「よし!すべての工事で事細かに成績をつけよう!」って誰が言い出したのか。入札適正化のためのアイデアでしょうが、結果としてはコスパ悪すぎな気がします…。
もっと他のやり方なかったんですかねー?
例えば、請負契約なので法令・仕様書・ルール違反をしたら、契約不履行、減額、指名停止などのペナルティを与えるでも良いと思うんですが、それでは回らなくなるくらい建設業界は不良だったということでしょうね。まあ膨大な仕様項目をすべて満足する工事なんて存在しませんし、これ言ったらアレですけど(;´・ω・)
違反をしても成績を下げますね~だけのゆるゆる制度。頑張った業者には褒美を与えるというポジティブな捉え方もできますが。
全国的に優良者表彰を義務化しているのはやりすぎな気がします。そうでもしないと法令遵守・スキルアップが図れないとか、少し残念な業界じゃありませんか?
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行政の監督権が肥大化していると感じます。行政依存の国民意識が根付いているという話は別の機会にお話ししますね。
高評価をとりやすい現場って…?
発注者が多くが感じていることは、「簡単な現場=高評価をとりやすい現場」となっていて、これがマズいということです。なぜ、マズいかと言うと、簡単でラクな工事に人気(入札申請)が集まり、コスパが悪いような難易度が高い現場や時間的制約・交通制限が厳しい中心市街地の工事現場が避けられるようになり、そういった難工事(利益が上がらない工事)は入札不調・不落を繰り返すことになってしまうのです。
「施工条件等への対応」という項目で加点することはできますが、総括監督員の考査項目ですし、点数はそれほど伸びません。
ちなみに、舗装工事のような単純明快な工事内容であれば書類もラクなのでふつうに採点すると高評価になってしまいます。このような“工種別”に有意差がでることは仕方ないと思いますが、同工種なのに「簡単な現場=高評価をとりやすい現場」になってしまうことは大きな欠陥としか言えませんよね。
対策としては、難工事の諸経費などに費用を上積みする方法や、「施工条件等への対応」などの点数を増やす方法などが考えられますが、適正に評定するのはなかなか難しいでしょう。
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自治体によっては、仕様書に明記して、別枠で点数を加点する方法をとってる自治体もありますよ。
無駄も増えてない?
たぶん品質確保にはある程度寄与していると思います。ただし、点数を上げるために、検査官や担当者の好みに合わせた書類を作ったり、無駄に写真を増やしたり、本来目的物の品質とは関係ない所まで受注者へ負担を掛けてしまっていますね。
法令や仕様書に定められている膨大な数の項目をすべて遵守するために、また、成績評定基準が不明瞭なために、とりあえず受注者側は過剰に現場内のルールを強化したり、書類を作り込みすぎる傾向があります。
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このように、頑張る業者さんほど「無駄な負担」も増えてしまってると感じます。
競争にする必要ある?
安全対策や品質確保などを評価し点数化し競争させるシステムは、書類づくりのノウハウや品質向上のための高度技術・情報が業者内に秘匿されてしまうおそれがある、というか現状そうなってます。
より良い公共の施設をつくってもらう(修繕してもらう)ためには、少なくとも契約上実施してもらった成果物、技術、指摘事項などはオープンにするべきです。
高評価だった場合は「どこがどんなふうに高評価だったのか」他の業者にも知らせて真似できるようにするべきですし、検査の指摘事項などもすべて整理して公開すべきだと思います。検査部署は偉そうに指摘するだけでなく自ら工事の品質・安全向上に努めるべきでしょう。
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まあそれをやると成績評定システムが崩れますが。
発注側担当の責任・負担が重くなる
また、担当者の責任という面でも問題があり、今でも工事成績は入札に小さくない影響を与えていますが、さらに深く関与することになれば、採点者の責任はますます重くなりますよね。発注側の担当が民間企業の生死を決められるようになってしまうわけです。
しかし、担当にはその責任が圧し掛かるだけで恩恵はとくにありませんし、市役所内では成績評定基準を均一化しようという意識も全然なかったりします。自治体によりますが、丁寧に指導されず、まともな研修制度もありません。私もほぼ独学です。
精神的な負担もあります。担当として数か月から数年一緒に仕事をしてきた現場代理人・技術者さん・作業者さんを評定するので精神的にも嫌な作業なんですよね。
皆さんは一緒に仕事をしてきた相手に厳しい点数をつけたいですか?
今後ますます重要度を増す見込みですが、無理がある制度だと感じています(;´・ω・)
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検査官が簡易採点するだけじゃダメなんですかね?
おわりに
ということで、公共工事で行われている成績評定について解説しました。
愚痴も書きなぐってみましたが、成績評定制度の良し悪しは置いておき、いずれにせよ広く普及した制度はもう引き返せません。今後もっと重要度を増すのは間違いないですし、成績表自体もいろいろな事情を組み入れて改良を重ねていくでしょう。
具体的に、どのように採点しているのかは別記事で解説しました(*’ω’*)
関連記事:工事成績評定の採点方法を解説します
では今日はこのあたりで。
またぬん(*’ω’*)ノ
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