こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
ロサンゼルス近郊で発生した山火事が驚異的かつ壊滅的な広がりを見せていますね。日本でも山梨と鹿児島の山火事が長引いていましたから、他人事ではありません。
都市の火災対策としては、建築物の基準や、都市計画上の規制などで複合的に対応をしています。そのうちの一つが道路上にある消火栓や防火水槽です。ここでは、『消防水利の基準』についてわかりやすく解説します。
消防水利って何?
「消防水利の基準」は消防庁のWebサイトから見られます。
消防水利の基準(昭和39年消防庁告示7) | 告示 | 総務省消防庁
条文を引用しますが、読みやすいように勝手に省略したりしてますのでご了承ください。
消防水利の定義が書かれています。
例として、プールとか河川も挙げられていますが、まあ使えそうな水なら何でもいんですよね、たぶん(笑)ただし、実際に整備されるのは消火栓と防火水槽です。
消火栓とは水道管から水を供給する設備で、道路に埋められている水道管に取り付けられています。ビルやマンションなどに設置される私設消火栓は建築設備の範疇ですね。
防火水槽とは消防用水を貯めておくための貯水設備で、主に公園や空き地に埋められています。あらかじめ貯められている水を使用するので、災害時に水道管が破損していても使用できるといったメリットがあります(耐震化されている防火水槽ならね)。
ここでは私設消火栓と防火水槽は置いておいて、公設消火栓について主に解説していきます。
消火栓の具体的な仕様
第3条には消火栓の具体的な仕様(口径など)が規定されています。
取水・給水能力は毎分1m3
第一項について、防火水槽は40m3以上のサイズが必要ってことですね。消火栓は水圧が掛かっている配水管から取るので、第二項以降の規格を満足していれば問題ありません。ちなみに、毎分1m3というのは消防ポンプ自動車で2口放水(500ℓ/分×2口=1m3/分)を想定しています。40分というのは標準的な木造建物に必要な放水時間は30分程度なので若干の余裕を見込んで定められています。
口径はφ65
第二項について、消火栓の口径はφ65で全国統一です。昔のはφ40とかも残ってたりしていて放水能力が低いってことで既存不適格ですね。
水道管の口径はφ150以上
そして、消火栓は水道本管(支管)に取り付けますが、その水道管の口径は原則φ150以上でなければなりません。でも道路上に張り巡らされた水道管はφ150以上ばかりではありませんよね。いや、むしろφ50、75、100のほうが多いくらいです。だから、例外も規定されていて、「管網の一辺が180m以下となるように配管されている場合は、管網の管の直径を75mm以上とすることができる。」と書かれています。
管網とは、網目状に管路が整備されている状態を言います。φ150未満の配水管で消火栓を使うと水圧が足りなかったり、水圧低下を引き起こしたりするかもしれないので、そのおそれがないφ150以上の配水管から取り出すことが原則となっているんです。でも管網を形成していれば、φ75以上からOKですよってルールです。
φ75以上ルール
このφ75以上ルールについては、各自治体でも少し具体的な基準を設けてると思いますが、一般的なものを図で説明しましょう。
上図のように、φ150から分岐したφ75・100の配水管網が形成されているとします。
たとえばAの消火栓を開けた場合、左からも右からも給水されるので、周辺の水圧低下は起きないと考えられます。しかし、この距離が長くなればそれだけ住宅への給水管もあるし水圧低下が心配されるので、基準では「一辺180m以下の管網ならOK」と規定しているのです。また、だからと言って、同じ一辺に何個も消火栓を設けてしまっては、火災時に複数個開けたときに水圧が足りなくなってしまいます。ですから、管網分岐から1個目まではOKというルールを設けています(これは一般常識的なルールです。内規になってるかも)。上図のAとCは左から給水されるのでOK、BとEも右から給水されるからOK。しかし、Dは左右の分岐から2個目になるのでNGです。消防水利の基準とはちょっと考えが合わない気もしますが、現実的な運用ではこうなっています。
また、FとGは一辺が180m以下だとしても口径がφ50mmなのでNGです。Hは一辺が180mを超えてるのでNGですね。NGの場所は周辺の消火栓でカバーするか、防火水槽を整備するしかありません。
ほかにも、消防水利の基準では規定されていませんが、分岐したあと行き止まりの管路もよくありますよね。その場合は、分岐から1個目までOKとされています。
上図で言えば、Jは分岐から2個目なのでNG。Lは消火栓まで180mを超えてるのでNGです。この「180m」というのは自治体によって異なるかもしれません。他にもφ150未満の管網からの枝分かれはどうなの?とか現場ではいろんなケースがあると思いますが、ケースバイケースで考えます。
一応管網のルールを説明しましたが、いや、そもそも田舎ではこんなに綺麗に管網を作れないんですよね😅ガーーっと1本だけ配水管が通ってるとかザラです。なのでルールを無視してることも多いと思います。ルールを遵守すると管路をφ150にしなきゃいけなくて配水能力的に過剰になってしまったり、防火水槽を配置するにしても莫大な予算が掛かってしまうんですよね。
自治体毎のルールは公表されていないかもしれません。その場合でも開発行為の消防水利基準を調べてみると、おおよその考え方が載っていたりしますよ。
第三項は令和5年の改正で付け加えられた条文です。解析・実測したうえで大丈夫ならφ75以上の水道管でもいいよってことです。第二項の話みたいな田舎の実情とか、市街地の人口減少・水需要減少に合わせた効率化措置ですね。ダウンサイジングですね。
第四項は省略
消火栓の配置のルール
消火栓は建物をカバーするように配置されます。市街地ではだいたい50~100m間隔くらい。
別表(第四条関係)
用途地域 | 平均風速 | |
---|---|---|
年間平均風速が4m/s未満 | 年間平均風速が4m/s以上 | |
近隣商業地域 商業地域 工業地域 工業専用地域 | 100m | 80m |
その他の用途 地域及び用途地域の定められていない地域 | 120m | 100m |
標準は100m
実際には、都市では年間平均風速4m/sいかないところがほとんどだと思いますので別表の左側の数値を採用します。また、新規整備のときに用途地域をいちいち確認して区別しない場合もある(?)と思いますし、100mが標準と考えていいでしょう。自治体のルールを確認してね。
図で示すと次のようになります。
図のように建物が消火栓中心の半径100mの円に包含されるように配置します。防火水槽でも可。
左下のNGは、建物が円に包含されていないため。右端のNGは、河川が遮っていてホースが届かないためNGです。実際はこのような市街地っぽい地域では、消火対象(建物)のアリナシに関係なく満遍なく消火栓または防火水槽が配置されていると思いますけどね。さらに、円がもっと重なり合うように密集していて、消火栓同士の間隔は50m~100mくらいだと思います。
第二項では最大140mまでOKとなっていますが、20mホースを10本連結して200m(放水圧力をキープできる距離)までとして、屈曲を考慮して直線距離を140mとしているそうです。
消火栓は1棟の木造建築を消火するための基準だから、住宅密集地や大規模火災に備えて数は増やしたほうがいいかも?
地震に備えて防火水槽も整備されている
第三項では、消火栓に頼りすぎるなよってことが書いてありますね。これは地震で水道管が破損したときに消火栓が使えなくなってしまうおそれがあるからです。自治体によっては耐震型防火水槽も計画的に整備が進んでいます。水道管がすべて耐震型なら安心なんですけど、それでも、ロサンゼルスの山火事みたいな「水道の配水池が空っぽです」みたいな緊急事態も考えれるので、手段は増やしておくことは大切なのかもしれません。
海、河川、池、プールなどがある場合
第5条は、海、河川、池、プールなどの多量取水できる水利を想定したものです。
ポンプ車が部署できるように
第6条は、きちんと使用できる場所に設置してね、という規定です。私も詳しくないのですが、とりあえずポンプ車が接近して連結できるようにしなければなりません。「部署」と呼ぶみたいですね。車が入れないような狭い道に設置してはいけませんよ。
メンテナンスはしっかり
メンテナンスもちゃんとしましょうね。実務上は水道局(水道課)が管理してますが、消防署にも責任があると思います。本当は定期的に開閉確認くらいはした方がいいけど、数が多すぎるし、交通量多い場所もあるので難しいところ。古くなったものは取り替えた方がいいでしょうね。
おわりに
消火栓の基準について解説しました。
消火栓は全国に約200万個あります。
水道事業者が消火栓を設置・管理することが水道法第24条に規定されており、私たち土木系公務員が消防署と相談して配置を決めたりします。
有事の際は、地域の消防団も使いますし、地元住民も使うことがあるかもしれません。どこにあるのかくらいは知っておいたほうがいいかも。
参考になりましたら幸いです。
では、また。
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