小水力発電とは、一般河川、農業用水、砂防ダム、上下水道などに設置される1,000kW以下の水力発電施設のことをいいます。
こんにちは。土木公務員ブロガーのカミノです。
「再生可能エネルギー」という言葉を近年よく耳にしますね。太陽光発電と風力発電から一歩遅れていますが、じつは小水力(しょうすいりょく)発電が密かに注目を集めてるって知ってましたか?
ここでは、その小水力発電について「どういうものか」「メリットやデメリット」を解説したいと思います。
小水力発電とは?
水の循環のエネルギー
小水力の前に、まず、水についてお話します。
水からかよ!と思った方、あなたの期待通り、この記事は長くなりそうです( ゚Д゚)
水というのは、比熱が大きく常温の中で液体・個体・気体に変化する特殊な性質を持っています。
地球では、太陽エネルギーによって熱せられ、蒸発し、雲となり、いずれ雨となり地上に降り注ぎます。山に降った雨はまだエネルギーを持っています。地表に降ったものは低いところへ目指し、浸透したり、湖になったり、川となれば上流から下流へ流れていきます。その過程でもまた蒸発したり、流れ着いた海から蒸発したりして、また上空へ昇り、このエネルギーの循環を巡っています。
水力の発電とは、この地球を巡るエネルギーの一部を使わせてもらうものです。
小水力発電とは?
実は、日本には昔から水力を利用する仕組みは沢山あり、“電気”が発明されてから、かつての農村では水車等を利用した小水力発電が数多く建設されていました。
しかし、その後技術革新と開発が進み、維持管理のコスパが悪い小規模施設は一度淘汰されてしまっています。
今、環境保全に熱心な時代になってから、逆に再注目されているのは皮肉な話ですね。
小水力の定義
水力発電と言えば、大型ダムに設置されるもの「ザ・発電所」を想像すると思いますが、“小水力”とは何でしょう?
はっきりした定義はないのですが、日本においては新エネルギーに関する法律等で区分されるのが1,000kWなので、1,000kW以下の水力発電を小水力発電としています。
しかし、1,000kWと言えばかなり大きいですよ。私のイメージではマイクロ水力発電とも呼ばれる100kW以下もしくは200kW以下が“小規模な水力発電”ですので、本記事ではそのくらいをイメージして書きますね。
ちなみに、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、こちらの表のように分類しています。
大水力発電 | 10万kW以上 |
---|---|
中水力発電 | 1~10万kW |
小水力発電 | 1,000kW~1万kW |
ミニ水力発電 | 100~1,000kW |
マイクロ水力発電 | 100kW以下 |
設置される場所
小水力発電所は、一般河川、農業用水、砂防ダム、上下水道などに設置されます。
例えば、河川から新しく取水ルートを作る方法もあれば、既存の用水路に設置する簡易的な方法もあります。また、上下水道の施設内の落差を利用する方法もあります。
すべてに共通するのは、“無駄に捨てられているエネルギー”を有効活用している、という点ですね。
農業用水を利用するイメージはこんな感じ。
国を挙げて、人口減少していく農村を守るために、持続可能な発電所を地域内につくることを推奨しています。
2010年の環境省の調査では、日本の潜在ポテンシャルとしては約22,298地点、総発電量は約1,400万kWと推計されています。マイクロ発電については含まれていないので、これより更に設置可能地点数は何倍にも多くなると思います。
小水力発電のメリット
人気の太陽光や風力と比較して、優れている点と劣っている点を考えてみたいと思います。
年間を通じて24時間安定した発電が可能。
太陽光は1日で平均稼働時間は3時間とされてる一方、水は1年中24時間流れていますから、同じ施設規模の太陽光と比較して発電量はおよそ8倍ともいわれています。もちろん河川には渇水期もありますがそれも想定して取水量を設定するため、問題ありません。
出力変動が少ないことも系統安定や電力品質面でのメリットとなります。
設置面積が小さい
太陽光はご存じの通り、「面」でエネルギーをとりますので、設置占有面積は非常に大きくなります。
風力発電も、どでかい塔を離隔をとって建てなければいけません。その点では、小水力発電では河川から新規で取水する場合でも、管路と建物だけなので小規模ならかなり小さくすることができます。
地域づくりになる
水は地域固有の資源であり、河川の利水については厳しい制約が設けられています。これは大きなデメリットでもあるんですが、地域が一体となり事業者となるなら、それ自体が地域おこしに繋がるという特別なメリットがあります。これこそが小水力発電の醍醐味であり、最大の特徴です。
小水力発電のデメリット・課題
課題も沢山あります…。
法的手続きが煩雑
河川法や土地改良法、電気事業法など行政への手続きがかなり面倒くさいです。例えば、河川法では23条、24条に則って、河川の流水を占有するための申請が必要になります。
規制緩和が進んでおり、河川法以前から水を使っている、いわゆる「慣行利水権」については、H25年から届出だけで済むようになりました。これにより農業用水路等での発電(従属発電と呼ばれます)はますます盛んになっていくと思われます。
仕事柄、水利権についても関わることがあるのですが、よく分からないし、闇が深い部分があります:( ;´꒳`;)
まだまだ法的手続きは面倒だし時間が掛かるのが実態のようですね。
技術が確立されていない
小水力発電は、土木・機械・電気と複合的な要素があり、しかも大型水力発電とは違った技術が必要になります。
地域密着型の事業を起こして、地元企業が参入しようとしても、水車や機器は外注することになってしまうかも。
電力事業は長い間電力会社と一部の企業が担ってきており、電力会社や大手企業の中に技術が秘匿されている状態かもしれません。エネルギー開発は衰退していたこともあって、開発競争力は未熟だと思われます。
導入コストが高い
小さい水力発電と言われますが、日本ではコストが高く、容易に導入することはできませんよね。
調査・設計・施工の各段階でそれなりの費用が掛かり、1kW当たり200万円程度費用が必要です。例えば、100kWの施設ならざっくり2億円必要ということですねΣ(゚ロ゚;)
FIT価格で売電収入があるしても、マイクロ発電レベルでは採算ベースに乗せることは難しい現状があります。
例えば2億円で100kWの施設を建設できたとしましょう。年間売電額見込みは約2,000万円とすると、10年間運用して、やっと返済できます。
投資回収が早いようにも感じますが、定期的に機器をオーバーホールしたり毎日取水部の清掃をしたり維持管理の費用がけっこう掛かりますし、途中で発電が止まったりすれば収入は一旦ゼロになるリスクもあります。しかも売電単価は毎年下がっていく予想ですから、投資の宣伝の謳い文句のように甘い世界ではないんですね…。
しっかりした計画と実績がなければ資金の借り入れは難しいですよ…。
地域の合意形成が難しい
地域固有の資源である水を使いたい場合、利害関係者は多岐に渡ります。目的意識や問題意識を共有して、集落が一致団結して取り組む必要があります。そして、それを“誰がやるのか”という問題があります。
コスト・技術云々よりも、まず誰も始め方がわからない、始めても地域の理解を得る方法がわからない。というようにスタート地点で止まってしまう可能性があります。
小水力発電の仕組み
さて、次はメカニズムの話です。
私もよく分かってないので超簡単に説明します!
冒頭の水循環のところでも書きましたが、工学的に言うと、小水力発電とは水の力学的エネルギー(位置エネルギーと運動エネルギー)を水車(タービン)によって電気エネルギーに変換することです。
変換された電気エネルギーは制御盤でコントロールされて、配電や系統連系で電力会社の電線と接続されます。
発電の一般式は以下のようになります。
発電量 = 流量 × 落差 × 重力加速度 × 効率
P(kW) = Q(m3/s) × H(m) × g(m/s2) × η
式からわかるように、落差と流量が大きければ発電量が大きくなります!
ちなみに、落差の代わりに流速をエネルギーとして使えますが、流速は実は視覚的に感じるよりもエネルギーは大したことありません。例えば、洪水時の流れが速いときの5m/sでも、高さに換算すると1.25mにしか相当しません。
つまり、適地を探すときは、とにかく落差が大きくて(できれば10m以上)、1年間を通して流量が安定して多い所を見つけるべきです。山に遊びに行ったときは渓流や水路を見て、「お。ここは小水力発電に適してるな」とか考えてみましょう(*´ω`*)
小水力発電を始めるときに知っておくべきこと
小水力発電を始めたくなりましたか?
では、その他の雑知識をご紹介していきますね。
固定価格買い取り制度(FIT価格)とは?
電気の買取価格は国が決めています。
固定価格買い取り制度(FIT)とは、その名の通り、エネルギーの買い取り価格を法律で定める再生可能エネルギーのための助成制度です。
小水力発電は2012年に適用されました。
経産省のサイトによると、こちらの表の単価に決定されているそうです。
電源 | 規模 | (参考) 2019年度 2020年度 2021年度 |
---|---|---|
中小水力発電 | 200kW未満 | 34円+税 |
中小水力発電 | 200kW以上 1,000kW未満 | 29円+税 |
中小水力発電 | 1,000kW以上 5,000kW未満 | 27円+税 |
中小水力発電 | 5,000kW以上 30,000kW未満 | 20円+税 |
中小水力発電 (既設導水路活用型) | 200kW未満 | 25円+税 |
中小水力発電 (既設導水路活用型) | 200kW以上 1,000kW未満 | 21円+税 |
中小水力発電 (既設導水路活用型) | 1,000kW以上 5,000kW未満 | 15円+税 |
中小水力発電 (既設導水路活用型) | 5,000kW以上 30,000kW未満 | 12円+税 |
この記事では、200kW未満の小水力発電のことを言ってますから、一番上の34円+税ということでしょうかね。
計算してみましょう。
100kWの施設なら、
100kW×24時間×8か月=約570,000kW(年間)
570,000kW×34円=19,380,000円
単価34円で売れるとすると、年間の売電額は約1940万円(税抜)となりますね。さきほど述べた約2,000万円というのはこの計算によるものです。
売電単価はどんどん安くなってます。
参入する企業
2019年1月、大手ゼネコンの清水建設は、2016年12月から事業化検討に着手していた小水力発電事業に本格参入すると発表しました。
精密機器メーカーのリコーも発電出力1kWレベルの低コストのマイクロ水力発電システムを開発して、地域の小河川や農業用水路、上下水道の施設内水路に使っていくようです。
「エネルギーの地産地消」を目指す取り組みは良いですよね。
他にも、大阪ガスも2015年に小水力発電の事業を開始していて、大和ハウス工業、空調機器のダイキン工業、日本工営や、超大手の子会社が発電所を建設したりしています。
小水力発電の手引き・参考図書
小水力発電の導入に関して、国交省が手引きを作成してくれています。
こちらの国交省のウェブサイトに「手引き」や「登録申請ガイドブック」、「河川区域内に設置する場合のガイドブック」が用意されていますので、興味がある方は見てみてください。
他にもパンフレットや、各地域の国交省の問い合わせ先なども丁寧に紹介されていますので、参考にされてください。
また、農水省でも小水力発電事業に取り組んでいます。
こちらの農水省ウェブサイトでまとめられています。
農業水利施設の未利用エネルギーの活用を図る小水力等発電は、持続可能なエネルギー供給に寄与するとともに農業水利施設の適切な維持管理を図るうえで重要です。平成28年8月24日に閣議決定された土地改良長期計画では、「農業水利施設を活用した小水力等発電電力量のかんがい排水に用いる電力量に占める割合(目標:約3割以上)」を重点的な取り組みとして掲げており、農村振興局では、小水力等の利活用を推進するための各種施策を講じています。
農水省
各自治体も事業者として取り組んだりしてますので、各自治体ウェブサイトで検索してみるとより詳細な制度や事例について資料が用意されています。調べてみてください。
NEDOの再生可能エネルギー技術白書は再生可能エネルギー全体を説明したものですが、参考になりますので目を通してみるといいかと思います。
書籍としては、“地域のための”小水力について書かれているものがいいと思います。なかなかネットでは読めないものですから。
導入事例
全国的に数多くの小水力発電が設置されています。
さきほどの国交省の手引きや、農水省のウェブサイトに導入事例が下記のように載ってます(*´ω`*)
いろんな規模、いろんな形式の発電施設があるんですね〜。
個人的には、いかにも発電所っていう見た目ではなくて、ひっそりとしていて、趣がある建物だったりデザインにもこだわってる施設が好きですね!
私の知り合いで全国の小水力発電所を巡っている変な人がいるんですが、その人が一番良かったのは宮崎県日之影町にある大日止昴小水力発電所とのことです。
次回はこの大日止昴小水力発電所について一つ記事を書きたいと思います。資料があまり見つからなければ別の発電所にします(;´・ω・)
小水力発電で大切なこと
最後になりましたが、小水力発電について大切なことを書いてみます。
まず、念頭に置くことは水は地域の資源であり、地域のために使うべきだということ。
なるべく地元地域が事業主体になるべきです。大手企業がビジネスとして参入してくる流れですが、彼らが何を成そうとしているのか地域住民はしっかりと見極める必要があります。
太陽光や風力では、地域がめちゃくちゃにされた事例も多数報告されています。ニュースにもされておらず地域外に気づかれないまま、地域や自然環境が壊されてるところもあるでしょう。
小水力発電とは小さいながらも50年、100年と持続可能なシステムを構築すべきものです。最初が肝心です。
なるべく地域が主体となり、地域おこしの一環として、経済の循環までも視野に入れた適切な目的を設定すること。目的を共有し、行政に相談したり、学識者に相談したり、必要な人材を集めることが大切です。
小さい集落なら、100kW未満でも十分に地域をまかなえる施設になり得ます。山間部での地域づくりの希望の光だと思います。
これから先は、田舎の集落のために、持続可能なシステムで建設していくことが必要です。これができれば急に荒廃することはなくなりますよ。
では、長文解説になりましたが、今日はこのあたりで失礼します。
ありがとうございました。
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