こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
大きな洪水に対して居住地を浸水被害から守ろうとするとき、基本的には、①河道を掘削して広げる、②高い堤防を築く、の2つの選択肢があります。
それぞれの堤防の構造を「堀込」と「築堤」と呼んでいます。
ここではこの2つについて説明します。
河川の堤防の種類
河川では水を安全に流すために、左右岸に「堤防」が築造されますよね。
河川堤防の種類は本堤、副堤、横堤、囲繞堤、周囲堤、越流堤などなど沢山あるんですが、これらは機能や役割によって分類したものといえます。
見方を変えて構造形式だけで考えると、堀込構造と築堤構造の2種類に分けられます。
下のイメージ図の右岸が堀込構造、左岸が築堤構造です。このように右岸と左岸が異なる構造の河川も珍しくありません。
堀込構造
堀込(ほりこみ)構造は、河道を掘削するだけで洪水をおさめる堤防のことをいいます。
定義としては、堤内地(居住地側)の地盤高がHWLより高く、堤防高が60cm未満の河川の形状です。もしくは、ただ単に堤内地の地盤高が堤防天端より同じまたは高い構造のことを指すこともあります。↑のイメージ図の右岸は、堤防と住宅の地盤高さがほぼ変わらないことが分かると思います。
「堀込」は「掘込」と書かれることもありますし、「無提」と呼ばれたりすることもありますが、どちらも同じ意味です。その区間だけを指して、堀込区間、堀込河道、堀込部と呼ばれることもあります。
堀込構造のメリットは、洪水による河岸浸食が起きても周辺への氾濫に結びつかないことです。ですから、河川の理想的な姿とされていて、中小河川ではなるべく堀込構造が優先されます。ただし、全区間堀込構造にできることはあまりなく、無理に堀込にせず築堤にしたほうが河川全体の安全性が高まることもあるので全体で考えることが大切です。
堀込構造であれば災害リスクが低いので、設計する上で堤防余裕高、天端幅、盛土による堤防ののり勾配、堤防の管理用通路等について特別の扱いとなる場合があります。
デメリットは、築堤と比べて洪水容量を効率的に増やせないこと、川幅がより必要になること、川底が岩盤だったり逆に弱すぎる地盤のときは現実的に費用が掛かりすぎて施工できないことなどがあります。
また、HWLの設定の記事でも書きましたが、堀込区間の余裕高をとりすぎると、計画以上の洪水を流せてしまうので下流の築堤区間の破堤・越水リスクが大きくなってしまいます。↓の図を見てもらうと意味が分かるかと思います。
関連記事:計画高水位(HWL)とは?
築堤構造
築堤構造は文字通り堤防を人工的に築かれた構造のことです。イメージとしては堀込河道だけでは洪水をおさめられない区間で土を盛って築堤する感じですかね。天井川は違いますが…。
「築堤」は「有堤」とも呼ばれます。
堤内地(居住地)の地盤高がHWLより低いことになりますので、破堤・越水した場合の浸水被害は堀込構造よりも遥かに大きくなってしまいます。また、堤内地に降った雨を河川に排出できなくなる内水氾濫も起きやすくなります。
メリットは築堤のやり方次第で洪水容量をコントロールしやすいことです。
築堤構造は堀込よりも災害リスクが高いので、維持管理する上でいくつか制約が出てきます。例えば、堤防付近に工作物を作るときには通称「2Hルール」に従うこと。
2Hルールとは、ざっくり言うと、築堤構造の堤防付近に工作物をつくるとき、堤防から20m以内では工作物の高さHの2倍の距離をとらなければならない、というルールです。詳細は下の記事で解説しています↓
関連記事:河川堤防の2Hルール
このように築堤構造の場合は弱点となる部分をつくらないようにするわけですね
堀込と築堤は区間が決まってるのか
さて、2つの構造の違いについて解説してきましたが、これらは明確に区間が分かれているのか?と聞かれると実は明確には決まっていなかったりします。
例えば、発展途上国の大規模河川工事で新しく河道を設計するときは堀込(築堤)区間を明確に決める必要があるかもしれませんが、現状日本の中小河川を維持管理する上で明確にどこからどこまでが堀込(築堤)区間であるかは管理されていないことが多いと思います。知りたい場合は、測点の横断面図からHWLと堤内の地盤高を見るとか(←その地点だけしか分からない)、現地調査で確認するしかありません。
ですから河川関連の仕事をするときは、現地調査にてHWL・平常時の水位・堤防の高さ・堤内地の高さなどは細かくチェックしておき、だいたいの水位と堤内地の関係性を知っておくことが大切です。
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