こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
河川畑に関わる仕事をしていると2Hルールという言葉を耳にすることがあります。
これは河川堤防を守るための行為制限の技術的基準です。河川課職員でなくても地味に2年に1回くらい出会う言葉ですので、概要を覚えておきましょう。
2Hルールとは?
2Hルールとは、河川堤防を守るための行為制限について規定した通達「堤内地の堤脚付近に設置する工作物の位置等について(建設省河川局治水課長通達)」のことです。
原文をそのまま引用します。
堤内地において、堤防の堤脚に近接して工作物を設置する場合については、水路等の設置に伴う掘削により堤防の荷重バランスが崩れること若しくは基盤漏水が懸念される箇所においてパイピングが助長されること又は止水性のあるRC構造物等の設置により洪水時の堤防の浸潤面の上昇が助長されること等の堤防の安定を損なうおそれがあることから、従来より、工作物の設置による堤防に与える影響について検討し、その設置の可否を決定してきているところであるが、この度、堤内地の堤脚付近に設置する工作物の位置等に係る判断基準等をまとめたので、今後は、左記により取り扱われたい。
記
(1) 堤脚から五〇パーセントの勾配(二割勾配)の線より堤内側及び堤脚から二〇メートル(深さ一〇メートル以内の工作物の場合については一〇メートル)を越える範囲(下図の斜線外の堤内地側の部分)における工作物の設置(堤防の基礎地盤が安定している箇所に限る。)については、特に支障を生じないものであること。
(2) 堀込河道(河道の一定区間を平均して、堤内地盤高が計画高水位以上)のうち堤防高が〇・六メートル未満である箇所については、下図の斜線部分に該当する部分はなく、特に支障を生じないものであること。
(3) 杭基礎工等(連続地中壁等長い延長にわたって連続して設置する工作物を除く。)については、壁体として連続していないことから、堤防の浸潤面の上昇に対する影響はなく、下図の斜線部分に設置する場合においても、特に支障を生じないものであること。
(4) 下図の斜線部分にやむを得ず工作物を設置する場合については、浸透流計算により求めた洪水時の堤防内の浸潤面に基づく堤防のすべり安定計算により、堤防の安定性について工作物設置前と比較し、従前の安定性を確保するために必要に応じて堤脚付近に土砂の吸い出しを生じない堤防の水抜き施設の設置等の対策を講ずるものとすること。なお、旧河道や漏水の実績のある箇所においては、堤防の川表側に十分な止水対策を行う等の対策を併せて講ずる必要があると考えられるものであること。
(5) 基礎地盤が軟弱な箇所における下図の斜線外の堤内地側の部分に工作物を設置する場合については、荷重バランスの崩れ、浸潤面の上昇等により堤防の安定性を損なうことが考えられるため、(4)に準じて堤防の安定性について確認し、必要に応じて所要の対策を講ずるものとすること。なお、事前に十分な検討を行い堤防への影響の範囲を明確にしておく(下図と同様の図を作成)ことが望ましいものであること。
(6) 堤防の基礎地盤がシラスや泥炭地帯等の基盤漏水を生じやすい地質である場合については、すべりに対する堤防の安定性のほか基盤漏水に対する堤防の安定性についても確認し、必要に応じて所要の対策を講ずるものとすること。
(7) 排水機場の吐出水槽等の振動が堤防に伝わるおそれのある工作物を設置する場合については、堤防のり尻より五メートル以上離すものとすること。
(8) その他堤防の安全性を損なうおそれがある場合で上記の判断基準によりがたいものについては、個別に十分な検討を行い、所要の措置を講ずるものとすること。
いろいろ書いてありますけど、(1)が重要です。
(1)は要するに、上の図の斜線部分には工作物を作ってはダメということですね。この斜線部分が堤脚から高さH・距離2Hの勾配で引いた線(2Hラインとか呼ばれます)より下の範囲ですので「2Hルール」と呼ばれています。
もし斜線部分に工作物を設置したいなら、特別な対策が必要となります。←(4)に書いてありますね。
河川保全区域に適用される
前提の話として、この通達(技術基準)は河川保全区域に適用されます。
2Hルールは河川区域内の堤脚から隣接した土地(0~20m)についてのルールですよね?ここは河川区域ではありませんから、本来は河川側から行為制限をかけられないところです。しかし通達で行為の制限をかけているということは、法令上指定された行為制限可能な区域でなければいけません。そのような区域は河川法第54条の「河川保全区域」として規定されています。
つまり、2Hルールとは河川保全区域が指定されている河川(区間)にのみ適用される技術的基準なのです。
関連記事:河川区域と河川保全区域
もちろん安全のための技術的基準ですから、公共の工作物を安全側に設計するなら区域指定に関わらず遵守したい気持ちになると思います。コンサルは近くに堤防(護岸)があれば2Hルールを守って設計してきますし、河川管理者と協議をするときも職員から「2Hルールがあるから~」みたいに当たり前のように遵守を求められます。しかし、河川保全区域が指定されていないなら守らなくてもいいルールです。もし遵守を求められたら「まずは河川保全区域を指定してから指示してください」と言ってもいいわけです。そんなことは言いませんけど(;´・ω・)
これらを踏まえてどう考えるべきか。
私の考えとしては、堤防付近で公共施設を設計するとき、盲目的に「2Hルールがあるから」とか「河川管理者から指示があったから」という理由じゃなく、一歩踏み込んだ検討をおこない、「洪水時に堤防が○○となり危険な状況になる懸念があるため2Hルールを準用し、このような設計をする」という方針をもつべきかなーと思います。
堀込河道では適用されない
(2)に書いてあるとおり、堀込河道では2Hルールを適用しなくてもいいです。なぜかというと、堀込河道の場合は洪水があっても越水・破堤のリスクが少ないからです。2Hルールは築堤河道の場合のみ適用されます。
さきほどの河川保全区域とおなじように、現場が堀込河道なのに2Hルールを順守して設計しようとする(されている)ことがあります。それで費用が増えていたら過大設計ですのでやめましょう。
堀込と築堤についてはこちらの記事で解説しています↓
関連記事:堀込構造と築堤構造
仮設は認められることがある
2Hルールを違反していると洪水時の水位が高くなった時に堤防が壊れるおそれがあります。逆に言えば、洪水時以外はそんなに危険な状況にはなりません。
ということで、非出水期に短期間だけ仮設の工作物を置く場合などは例外的に認められることもあります。
また、仮設以外でも(3)に書いてあるように杭基礎工等みたいな影響がないor少ない工作物は、例外的に2Hルール適用除外されることがありますので、河川管理者に構造図を示して協議しましょう。
おわりに
2Hルールをサラッと解説してみました。
(1)がメインですが、(2)~(8)も大事ですので読んでおいてください。
河川に詳しくなったら他にも色々書いてみたいなと思います。
参考になりましたら幸いです(*´ω`*)
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