こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
法面(のり面)は、人工的につくられた斜面のことです。日常会話で自然斜面も含めて法面と呼ぶこともあります。
ここでは法面の標準勾配と、ついでに床掘りの勾配、手掘りの勾配を説明します。
標準勾配を調べる前に
土木工事では大小さまざまな法面が作られますよね。
このとき土木技術者が気を付けなければいけないのは、排水や表面保護、荷重と締固め、安定計算など色々ありますが、まずは「どれだけの勾配をつけるのか」が一番基本です。付帯でつくられる簡易的な斜面の場合は計算などは特に行いませんので、必ず安全な勾配で設計施工することになります。
設計するときはその明確な勾配の数値がほしいですよね。しかし、土木工学は経験工学と言われるように「経験」「実績」によって基準が定められていることがあり、ここで紹介する標準勾配についても例外ではありません。なぜなら、土材料は種類・場所・時期によって違う性質を持つアンバランスな材料ですから、計算だけで一義的に数値を決めることができないのです。
各指針には必ず「近隣の類似土質条件の施工実績、災害事例等を配慮して決定すること」みたいな注意書きが添えられていると思います。
つまり、書籍の数値はあくまで参考で「計算上かつ経験的にたぶん安全だと思う勾配」ってことです。また、ここで紹介するのは道路土工なので、ほかの分野、例えば河川堤防などはもう少し緩く設定されると思います。そこんところを念頭に置いておきましょう。
安定勾配とか安全勾配って呼ばれますね。
切土法面と盛土法面
切土と盛土で安全な勾配が違います。
切土法面は地山を切り取ってできた新たな斜面のこと。
盛土法面は土を盛ってできた新たな斜面のことです。
令和3年7月に静岡県熱海市で、大雨により盛土が崩落し土石流災害が発生したことが記憶に新しいと思います。あれは杜撰な管理が問題でしたが、切土より盛土のほうが脆弱な状態ですから比較的緩い勾配にしなくていけません。
盛土法面の標準勾配
盛土法面の標準勾配は『道路土工-盛土工指針(平成22年度版)』に規定されています。
盛土材料 | 盛土高 | 勾配 |
---|---|---|
粒度の良い砂(S)、礫及び細粒分混じり礫(G) | 5m以下 | 1:1.5~1:1.8 |
5~15m | 1:1.8~1:2.0 | |
粒度の悪い砂(SG) | 10m以下 | 1:1.8~1:2.0 |
岩塊(ずりを含む) | 10m以下 | 1:1.5~1:1.8 |
10~20m | 1:1.8~1:2.0 | |
砂質土(SF)、硬い粘質土、硬い粘土 | 5m以下 | 1:1.5~1:1.8 |
5~10m | 1:1.8~1:2.0 | |
火山灰質粘性土(V) | 5m以下 | 1:1.8~1:2.0 |
勾配の左側の数値が標準値で、設計ではこちらの標準値を用いることが多いと思います。
良質な土質で背が低い盛土なら1:1.5、そうでないなら1:1.8ですね。
図面上の勾配の表記方法(1:n)が分からない方はこちらの記事をどうぞ↓
盛土高が5m以上になる場合は5m毎に小段を設けましょう。
切土法面の標準勾配
切土法面の標準勾配は『道路土工-切土工・斜面安定工指針(平成21年度版)』に規定されています。
地山の土質 | 切土高 | 勾配 |
---|---|---|
硬岩 | 1:0.3~1:0.8 | |
軟岩 | 1:0.5~1:1.2 | |
砂(密実でない粒度分布の悪いもの) | 1:1.5~ | |
砂質土(密実なもの) | 5m以下 | 1:0.8~1:1.0 |
5~10m | 1:1.0~1:1.2 | |
砂質土(密実でないもの) | 5m以下 | 1:1.0~1:1.2 |
5~10m | 1:1.2~1:1.5 | |
砂利または岩塊混じり砂質土 (密実なもの、または粒度分布のよいもの) | 10m以下 | 1:0.8~1:1.0 |
10~15m | 1:1.0~1:1.2 | |
砂利または岩塊混じり砂質土 (密実でないもの、または粒度分布の悪いもの) | 10m以下 | 1:1.0~1:1.2 |
10~15m | 1:1.2~1:1.5 | |
粘性土など | 10m以下 | 1:0.8~1:1.2 |
岩塊または玉石混じりの粘性土 | 5m以下 | 1:1.0~1:1.2 |
5~10m | 1:1.2~1:1.5 |
切土は地山によってマチマチなのですが、砂の標準値は1:1.5で、砂質土(密実なもの)の標準値は1:1.0なのでこれだけ覚えていればイメージは持っておけるのかなと思います。
やはり盛土に比べると安定を確保しやすいですね。
切土の場合は7mごとに小段を設けましょう。
床掘りの標準勾配
ついでに、床掘りについても書いておきます。
床掘りは地盤を掘り下げて構造物を据えた後に埋め戻しがあるときの掘削作業のことです。
例えば、道路の端っこに排水路を構築する工事のときは、構造物を据えるための床掘りをおこない、一時的に斜面が生まれます。この斜面の安定勾配はいくつなのでしょうか。切土法面扱いしても良いような気もしますが、一時的な掘削ですしちょっと違いますからね。
床掘りの標準勾配は国総研の『令和5年度 土木工事数量算出要領』に規定されています。これを設計指針と言えるのか微妙ですが、各発注機関の設計要領や仕様書などに同じ数値が書かれていると思います。
土質区分 | 掘削高さ | 勾配 | 小段の幅 |
---|---|---|---|
中硬岩・硬岩 | 5m未満 | 直 | |
5m以上 | 1:0.3 | 下から高さ5mごとに1m | |
軟岩Ⅰ・軟岩Ⅱ | 1m未満 | 直 | |
1m以上5m未満 | 1:0.3 | ||
5m以上 | 1:0.3 | 下から高さ5mごとに1m | |
レキ質土・砂質土 粘性土・岩塊玉石 | 1m未満 | 直 | |
1m以上5m未満 | 1:0.5 | ||
5m以上 | 1:0.6 | 下から高さ5mごとに1m | |
砂 | 5m未満 | 1:1.5 | |
5m以上 | 1:1.5 | 下から高さ5mごとに2m | |
発破などにより崩壊しやすい 状態になっている地山 | 2m未満 | 1:1.0 | 下から高さ2mごとに1m |
床掘りの場合は「直」という勾配がありますね。これは、文字通り垂直に掘るという意味ですが、礫質土・砂質土などでは1m未満なら垂直掘りでも崩れることはないんですね。締め固められている地山をオープン掘削するなら結構安全なのです。さらに、舗装版は崩れないので自治体によっては舗装版の厚みを引いた掘削高さでOKなところもあります。
また、土質区分によって小段の幅が決められているのが特徴ですね。
ちなみに、下水道などの管埋設工事では溝掘りと呼ばれる垂直掘りをしていきますが、その場合は深さ1.5mまでは土留めは要らないことになっています。床掘りの基準と違いますね。私はこの1.0~1.5mを空白の50cmと呼んでます(笑)基準について詳しい方いたら何でこうなってるのか教えてくださいm(__)m
手掘り掘削の勾配
手掘り掘削(重機を用いない人力掘削のこと)の場合の最大勾配は、安衛則によって決められています。法令なので絶対に守らなければならないものです。
角度で規定されているので変換がめんどくさいんですが、道路土工の指針と比べると安衛則のほうが急勾配であることが分かると思います。つまり、先述の道路土工の標準勾配を守っていれば大丈夫ということです。たぶんね(/・ω・)/
参考文献
最後になりましたが、とりあえず土工については道路土工シリーズが必読書になります。
道路土工構造物技術基準・同解説 H29.3 (公社)日本道路協会
道路土工-道路土工要綱 H21.6 (公社)日本道路協会
道路土工-軟弱地盤対策工指針 H24.8 (公社)日本道路協会
道路土工-盛土工指針 H22.4 (公社)日本道路協会
道路土工-切土工・斜面安定工指針 H21.6 (公社)日本道路協会
道路土工-擁壁工指針 H24.7 (公社)日本道路協会
道路土工構造物技術基準・同解説 H29.3は100ページしかないくせにお値段が4400円もするビックリな書籍ですが、ここで書いた標準勾配などがまとめられていますのでこれだけでも(職場にあるやつを)一読しておくと良いかと思います。
では今日はこのあたりで。若手技術者の皆様の参考になりましたら幸いです。
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