こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
公園遊具で遊んでいる子どもを不慮の事故から守るために、皆さんは、できるだけ危険性は無くしたほうがいいと考えるかもしれません。
しかし、じつは遊びの価値には「ある程度の危険性」が必要です。ちょっと危険だけど挑戦して乗り越えたときに生まれる達成感と自信。体の動きと遊具の動きを予測しながら身につけていく危険回避の能力。遊具に内在する小さな危険性がなければこれらの遊びの価値(心身の発達)は失われてしまいます。遊具の安全性について考えるときは、遊びの価値についても十分に尊重することが必要です。
ここでは2種類の危険、リスクとハザードについて解説します。
2002年指針から導入されました
国土交通省の「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第3版)」令和6年6月によると、都市公園における遊具の安全確保に関する基本的な考え方は次のとおりです。
「子どもは遊びを通じて冒険や挑戦をし、心身の能力を高めていくものであり、遊具の安全確保に当たっては、こうした遊びの価値を尊重して、リスクを適切に管理するとともに、ハザードの除去に努めること」
このように、最初の2002指針から、「遊びの価値」が論じられ、危険を2種類(リスクとハザード)に分けて対応するという考え方が導入されています。これはアメリカの善悪二元論を採用しつつ、ヨーロッパの「遊びの価値」を尊重するという思想も取り入れたものだったらしいです。詳しくはコチラの記事に書いてありました↓
「遊具の安全に関する規準」の改訂について~都市公園における遊具の安全対策の30年を振り返る~|建設情報クリップ|けんせつPlaza
ここで言われているリスクとハザードとは何でしょう??
リスクと遊びの価値
リスクとは、事故の回避能力を育む危険性、あるいは子どもが判断可能な危険性のことです。
冒頭でも述べましたが、ちょっと危険だけどそれを乗り越えたときに生まれる達成感や自信。体の動きと遊具の動きを予測しながら身につけていく危険回避の能力、判断力。これら遊びの価値を生み出すものがリスクです。国交省の2024指針の用語解説では、「リスクは遊びの価値のひとつ」と書かれています。
リスクは遊びの価値のために必要なものなので、ハザードにならないように管理しつつ、適切に設定すべきものです。
ハザードの除去
ハザードは、事故につながる危険性あるいは子どもが判断不可能な危険性のことです。
ハザードはできるだけ除去しなければなりません。別記事で解説した開口寸法や安全領域などの具体的な数値基準で安全性を確保しています。規定は充実してきてますので、今後は、老朽化対策も兼ねて予防保全型管理が重要になると個人的には思っています。使用中の遊具の危険性を如何にして見つけるか。
具体的な安全基準についてはこちら↓の記事で解説しました。ハザード除去の話ですね。
リスクとハザードの境界はどこ?
リスクとハザードの境界は、社会状況や子どもの発育発達段階によって異なり、一様ではありません。子どもの個人差・年齢差によって変化し、あたりまえですが、年齢が小さいほど(例えば幼児のほうが)同じ危険性でもハザードとなりやすいですね。つまり、遊具の設置や管理に際しては、子どもの年齢層などを勘案する必要があります。「小学生以上は使用禁止」(※体重が重いから)とか「対象年齢○~○歳」という張り紙がされてたりしますよね。そういうことです。
指針の基本的な考え方
大筋は分かってもらえたかと思いますが、指針本文がめっちゃ大好きなのでここで紹介しておきます。「1.子どもの遊び」からそのまま載せます(笑)
子どもと遊びの重要性
子どもは、遊びを通して自らの限界に挑戦し、身体的、精神的、社会的な面などが成長するものであり、また、集団の遊びの中での自分の役割を確認するなどのほか、遊びを通して、自らの創造性や主体性を向上させてゆくものと考えられる。
このように、遊びは、すべての子どもの成長にとって必要不可欠なものである。子どもの遊びの特徴
子どもが遊びを通して冒険や挑戦をすることは自然な行為であり、子どもは予期しない遊びをすることがある。
また、子どもは、ある程度の危険性を内在している遊びに惹かれ、こうした遊びに挑戦することにより自己の心身の能力を高めてゆくものであり、子どもの発育発達段階によって、遊びに対するニーズや求める冒険、危険に関する予知能力や事故の回避能力に違いがみられる。子どもの遊びと遊具
都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第3版)
遊具は、多様な遊びの機会を提供し、子どもの遊びを促進させる。このように遊具は、子どもにとって魅力的であるばかりかその成長に役立つものでもある。
また、子どもは、さまざまな遊び方を思いつくものであり、遊具を本来の目的とは異なる遊びに用いることもある。
私たち土木技師は公園整備・改修などで、遊具の設置についても検討します。何をどこに設置するのか?そもそも遊具って必要なのか?休憩所(東屋)のほうがいい?広場のほうがいい?水遊びとかもよくない?とか。場所によって様々な検討があると思います。その際に、上記の基本的な考え方は知っておいた方がいいかなと思います。
リスクを許容する考え方っていいよね
さて、今回の話は「リスクを適切に管理しよう。コントロールしよう」って話でしたけど、いわゆるリスクを許容するってことですね。昨今は安全第一主義が浸透しすぎてあらゆる危険性を排除する風潮になってると思います。私はそれがすごく嫌で、たとえば、「道路の2cmの段差につまずいて足を骨折した、訴えるぞ!」みたいなことが現実的に起きているのです。私も裁判に出廷したりしています。これって異常だと思いませんか?前見て歩けよ、危険予知して危険回避しろよって話です。明るい時間帯の晴れの日であれば前方不注視で、行政の過失は小さくなりますがゼロにはならないと思います。それだけリスクを残していることが責められる非常に管理者にとって厳しい世の中です。
社会が成熟すると欲求がどんどん高度になるのは原理として仕方ないかもしれませんが、どこかで線引きを下げてあげることはできるんじゃないかなーと思います。私は自己責任論者ではありませんが、さすがに他責思考が行き過ぎているのではないかなと。厳しくすればするほど、全体の幸福度は下がってしまう気がします。
というか出生数が70万人を切るような時代ですから、今後はマンパワーが足りず、すべてのリスクを除去するのは持続不可能であり、ある程度のリスクは許容するべきでしょう。
最後は愚痴のようなことを書いてしまいましたが、こんなことをいつも考えています。いろいろ感じているモヤモヤって根っこの部分で繋がってると思うんですよね。もうちょっと分かりやすく言語化したいです。
では、今日はこのあたりで。
またね。
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