こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
地盤強化や止水のために、薬液注入工を採用することがあります。
ここでは薬液注入工について私が知ってる範囲で概要と設計の流れ、施工監督ポイントを解説したいと思います。と言っても二重管ストレーナ複相式だけしかやったことないんですが。
※サムネイル写真は東興ジオテック株式会社さんのWebサイトより引用しました。
工法の種類
おもな工法は以下の3つ。
二重管ストレーナ工法(単相式)
二重管ストレーナ工法(複相式)
二重管ダブルパッカー工法
このなかでもコストが高すぎず、施工の信頼性があり、設備も小さくて済む、二重管ストレーナ工法(複相式)が一番選ばれています。実績はダントツNo.1です。
だから、なにも検討せずに当たり前のように複相式で設計してくるコンサルさんもいますが、根拠は持ってなきゃいけないので、きちんと選定フローで確認するか、3工法の比較表で選定するほうがいいでしょう。
簡単な比較表イメージは次のとおり。実際はもっと現場条件も加味して具体的なことを検討します。
二重管ストレーナ工法(単相式) | 二重管ストレーナ工法(複相式) | 二重管ダブルパッカー工法 | |
施工の信頼性 | △ | ○ | ◎ |
設備の規模 | 小 | 小 | 大 |
実績 | ○ | ◎ | △ |
経済性 | ◎ | ○ | △ |
3つの工法を簡単に説明します。
二重管ストレーナ工法(単相式)
二重管ストレーナー工法(単相式)は、ボーリングロッドで削孔し、瞬結性薬液を注入し、地盤を固める工法です。
瞬結性は、ゲルタイム(薬液が固結するまでにかかる時間)が数秒から十数秒のもので、あっという間にゲル状になります。シンプルな方法で経済性は一番いいですね。昔は単相式でしたが今は複相式が採用されることが多くなっているそうです。
二重管ストレーナ工法(複相式)
複相式も単相式と同じように削孔に使用するボーリングロッドをそのまま注入管として使用し、薬液を注入する工法です。違いは、瞬結性薬液と緩結性薬液の2種類を使うこと。緩結性は比較的ゲルタイムが長い薬液です。
youtubeの解説動画を見たほうがわかりやすいです。どうぞ
施工手順は、所定の深度まで削孔し、①一次注入で瞬結性薬液を注入します。注入管から近いところが固められるので、次は②緩結性薬液を二次注入すると、狙った範囲に広がってゆき、ある一定範囲を固めることができます。注入管をすこし引き上げ、上の地層で①②を繰り返し、段々とステップアップすることで改良区間全体をカバーすることができます。
メリットは次のようなものがあります。
・幅広い土質条件に対応できる
・設備が小さくて済む
・コストを抑えられる
・単相式より施工信頼性が高い
二重管ダブルパッカー工法
二重管ダブルパッカー工法は、ケーシング削孔と注入作業を別に行う工法です。
手間とコストが掛かりますが、注入効果が高いとされているため、軌道下などの重要構造物の近接施工や高い遮水性が要求される場所で採用されます。比較的大規模な工事ですね。
ここでは二重管ストレーナ工法(複相式)を解説していきます。
使う注入材は水ガラス系
注入材にも色々ありますが、大きく分けると水ガラス系などの薬液型と、セメントミルクなどの非薬液型があります。用途によってはセメントミルクなどを使うことがあるかもしれませんが、私はよく知りません。通常の地盤崩壊や漏水防止のためにおこなう薬液注入工では薬液型ですね。
薬液型の水ガラス系以外は地下水への影響が詳しくわかっておらず地中が汚染された場合は回収不可能になってしまうため、「疑わしきは使用せず」という考え方で使用が禁止されています。ということで、水ガラス系を選ぶことになります。水ガラスとはケイ酸ナトリウムが溶け込んだ液体のことで、身の回りによく使われている材料です。つまり環境への影響が少ない。この主材に硬化材などを加えることによって固化させます。
しかし、後述しますが、環境に影響が少ない水ガラス系であっても地下水への影響を確認するために観測孔をあけて毎日pHを測定する必要があります。
薬液注入工法による建設工事の施工に関する暫定指針について(国交省Webサイト)
溶液型と懸濁型
また、ややこしいことに水ガラス系にも溶液型と懸濁型の2種類があります。
そもそもの薬液注入工のメカニズムをお話しすると、
砂質系の地盤では土の間隙に薬液を浸透させて固化することで、地盤の透水性を低下させ粘着力により土と一体化させるものです。これを浸透注入といいます。
粘性土の地盤では、土の間隙に浸透させることが難しいため、圧力で地盤を割り、薬液が割裂脈を形成しながら広がっていきます。これを割裂注入といいます。
この2つの注入形態の違いがありまして、使用する水ガラス系も使い分ける必要があります。つまり、次の表になります。
対象土質 | 材料区分 | 注入形態 |
砂質土、砂礫土 | 溶液型 | 浸透注入 |
粘性土 | 懸濁型 | 割裂注入 |
※礫質土は、大きな間隙には懸濁型を使用するなど別途検討が必要みたいです。
無機系と有機系
反応時のpH区分としてはアルカリ性と非アルカリ性(酸性・中性)がありますが、どちらでもいいです。
また、無機系と有機系の硬化材がありますが、これもどちらでもいいのですが、有機系のほうが性能は良好らしいのですが、地下水への影響がすこし増えるので無機系が無難だと思います。有機系は20円/Lくらい高価ですし。もし有機物を含む場合は、水質監視で「過マンガン酸カリウム消費量」を測定することとされています。
設計の流れ
次は設計業務について説明します。
設計フローとしては以下のとおりです。
1.薬液注入工の必要性の検討
↓
2.材料と工法の選定
↓
3.改良範囲の計算
↓
4.注入量の計算
↓
5.図面作成・積算
薬液注入工の必要性の検討
まずは、設計時点で分かっている工事仕様や現場条件などを整理して、薬液注入工の必要性を考えます。
地盤に薬液を入れるということは少なからず地下水や地盤の汚染につながるおそれがあるため、極力避けるべきです。しかし、注入しなければ湧水により地盤が崩壊するなどの理由があり、他の手段と比べて有利になるときは薬液注入工を実施します。
一般的に、ライナープレート立坑の側壁や、立坑底部、土留壁の防護、シールド推進部、液状化防止などの場所で適用されます。
材料と工法の選定
さきほど書いたとおり、二重管ストレーナ工法(複相式)の水ガラス系が一般的です。砂質・砂礫土なら溶液型、粘性土なら懸濁型です。
改良範囲の計算
改良が必要な範囲を決めていきます。
具体的な計算方法は日本グラウト協会の『薬液注入工 設計資料』や各分野の設計指針に従ってほしいのですが、基本的な考え方として、次の3点は抑えておきましょう。
①基本の最小改良範囲は1.5m
②削孔は複列で配置する
③削孔の間隔は1.0m
場所・目的によって最小改良範囲が規定されていて、大体1.5m~です。(1.0mもあります)
たとえば、現場条件をあてはめると、最小改良厚さが2.0mで規定されているとして、計算の結果、改良厚さは0.8mで済むと分かっても、厚さ2.0mを改良しなければなりません。
その理由は、地中にボーリング孔から注入していくわけですが、平面図的に考えて綺麗に円形にひろがってくれるかは分かりませんので、隙間が生まれないように、削孔(注入孔)を千鳥配置になるように2列とか3列で配置したいからです。削孔は1.0mピッチくらいで行いますので、大体面積1m2当り1孔くらいになりますね。
注入量の計算
改良範囲が決まったら、注入量を計算することができます。通常のケースでは注入量は下式で求めます。
注入量Q(m3)=対象土量V × 注入率λ
注入率λは、間隙率nと充填率aの積と定義されてますが、実務上は土木工事積算基準マニュアルにある実績値の表を採用することが多いと思います。
土質 | N値 | 注入率(%) |
砂・レキ | 0~50 | 36.0 |
50以上 | 31.5 | |
砂 | 0~30 | 40.5 |
30以上 | 31.5 | |
粘性土 | 0~4 | 28.0 |
4~8 | 24.0 |
図面作成・積算
改良範囲が分かった時点で図面は作成できますね。ボーリングデータも反映させて地質もわかるように表記してほしいです。
積算について、土質ボーリングと同じような地層の厚みの施工条件を入れたり、1本当り注入量などを入れたりする必要があります。結構いろいろと数量を整理する必要がありますので、数量表をきちんと作り、照査まで終えてから納品してもらいましょう。
職員の監督ポイント
施工現場での職員の監督業務を説明していきます。
百聞は一見に如かず。わかりやすいyoutube動画がありますのでご覧ください。
まずは、提出された施工計画書や材料承認(品質証明関係)を確認しつつ、現場で削孔予定位置のマーキングをしてもらい問題ないか確認します。設計図から変わる場合は協議です。
次に使用材料確認ですね。瞬結・緩結の2パターンのゲルタイムを測ります。ゲルタイムとはA液とB液を混ぜてゲル状になるまでの時間です。ふつうの液体だったのに、ものの数秒でゲル状になってビックリ🫨
施工前に注入記録をつけるチャート紙に検印(監督名の捺印)をします。これ結構重要ですけど、誰も教えてくれません💦業者さんがそのまま施工を始めてしまわないように注意しましょう。データ改ざんされた経緯があるので、改ざん防止のためです。(まあ記録計を改造されたらどうしようもないんですが。)チャート紙については別記事で解説。
施工状況を見ましょう。どんな施工機械で、何人で施工しているのか、1孔どのくらい時間が掛かるのかを見ておきます。施工状況の立会写真は必要ないと思いますが、ボーリングなので削孔深さを確認する検尺作業は立ち会いましょう。仕様書で段階確認の詳しい規定があるかもしれません。
浅い箇所で注入量が多ければ地盤が膨らみ、路面が盛り上がることがあります。供用中の道路の場合は施工前後でGLを計測して異常隆起が起きていないか確認しましょう。業者さんに計測してもらい異常が起きた場合はすぐに連絡してもらいます。圧力の急上昇・急降下があったときも同様です。
施工後は材料の空袋検査を行います。施工前にも納入伝票の提出・提示を義務付けていることがあるかも。
注入のチャート紙と注入日報・施工数量報告書をチェックして数量確認します。
目視できる止水仮設は品質管理がゆるいかもしれませんが、重要な地盤改良であればもっと厳しい監督内容になるかと思います。
観測井戸による監視
また、施工中から地下水への影響を監視するために、2箇所以上の観測孔を掘って毎日採水・検査を行ってもらいます。検査項目は水素イオン濃度(pH値)です。有機系の場合は「過マンガン酸カリウム消費量」も測定します。監視のルールは決まっていまして、自治体のルールを確認するか、自治体のルールがないなら旧建設省の暫定指針を守るようにしてください。半年後まで測る必要がありますよ。途中で打ち切りたいときは協議対応です。
なお、個人的には毎日報告でなくて週1報告とかにして、異常値が出たときは即連絡でいいと思います。施工に伴う影響監視は、施工者があまり意識高くないところなので、職員は責任感をもって監督しましょう。
おわりに
大変長くなりましたが、私が知ってる範囲で解説してみました。お付き合いいただきありがとうございます。
参考文献は、日本グラウト協会の
『新訂 正しい薬液注入工法 この一冊ですべてがわかる』
『薬液注入工 設計資料』
『薬液注入工 積算資料』
『薬液注入工 施工資料』
です。
自治体の薬液注入工施工要綱や要領があればそちらも遵守してください。
参考になりましたら幸いです。
コメント