「土木インフラがヤバイ」の本当の意味

土木全般

こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。

土木インフラがヤバイ。これは建設後50年くらい経過するインフラが多くなっていて老朽化がヤバいよねって話なんですが、土木業界にいる人は耳にタコができるくらい聞いていて「もういいよ」って感じだと思います。

ここでは、ちょっと違う視点から、実際に行政で働いている私が感じている「土木インフラがヤバイ」の“本当の意味”を書きたいと思います。

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インフラ老朽化問題の現状  

まずは、おさらいです。

ご存知のとおり、日本の社会資本ストックは高度経済成長期に集中的に整備され、今後急速に老朽化すると予想されています。とくに今後20年間で、建設後50年以上経過する施設は加速度的に多くなり、その現状は下表のとおりです。例えば、道路橋を見てみると2030年には55%の橋梁が建設後50年を経過します。(しかも竣工年度不明の橋梁を除いた割合なので実際はもっと多いはず。)半分だとしても36万橋です( ゚Д゚)

これらの一斉に老朽化するインフラを維持管理・更新するのは難しいよねっていうのが「インフラ老朽化問題」です。

総数2020年2030年2040年
道路橋約73万橋約30%約55%約75%
トンネル約1万1千本約22%約36%約53%
河川管理施設(水門等)約4万6千施設約10%約23%約38%
下水道管きょ総延長:約48万km約5%約16%約35%
港湾岸壁約6万1千施設約21%約43%約66%
建設後50年以上経過する社会資本の割合 国交省サイトより

国交省はこの問題に対して危機感を持っているみたいで、色々な取り組みをしています。詳しく知りたい方は公式サイトをご覧ください。

インフラメンテナンス情報 – 社会資本の老朽化対策情報ポータルサイト (mlit.go.jp)

お金・人手が足りない

なぜ維持管理・更新するのが難しいかというと「お金」と「人手」が足りないから、と言われています。

国交省が所管する公共インフラ12分野(道路、河川・ダム、砂防、海岸、下水道、港湾、空港、航路標識、公園、公営住宅、官庁施設、観測施設)の維持更新費は単年で5~6兆円、2048年度までの30年間で176兆円以上かかると見込まれています。費用を抑える「予防保全」に切り替えてこの数字です。また、国交省管轄だけでこの数字です。

日本は財政難と言われ続けていますが、地方自治体で考えても、社会資本整備にかけてきたお金が地方債残高という形で重く圧し掛かっています。すでに地方債残高が積みあがってるところに、老朽化したインフラが「やあ、僕たちボロボロだから補修もしくは作り替えよろしくね」ってやってくるわけです。

「公共事業の財源は起債や補助金がメインだから財源不足にはならない」という主張を見かけますが、かなり能天気だと思います(こう言う人はたぶん良い時代を過ごしてきた60歳前後の人です。)地方債のシステムは未曾有の人口減少時代にも適応できるのかまったく分かりません。莫大な数のインフラをずっと維持管理しなければならない、その負債的な側面をカバーすると約束される制度ではないのです。

また人手不足も叫ばれています。少し前の国土交通白書では20万人くらい建設業従事者足りなくなるよ~って言われていました。外国人を呼び込んでカバーしようとしてますが、うーん、まあお金さえあれば人は寄ってくるかもしれませんね。

昔より不調・不落が多くなったのかは分かりませんが、きちんと適正価格で積算すれば落札されるので(難工事以外は…)、肌感では建設業従事者がすごく人手不足だなーとは感じません。ただし、老朽化インフラの維持更新を担当する役所側の職員が不足してると感じます(笑)まあ、笑い事ではないのですが。

カミノ
カミノ

私の身の周りでもいまから人手不足が見えてくるのかもしれません。

決断する人がいない

今回の本題です。

維持更新事業では大きな決断に迫られることがあります。長期的に考えると、それは「①過疎地域のインフラ閉鎖」です。短期的に考えると「②大規模更新事業の着手」です。

「①過疎地域のインフラ閉鎖」はコンパクトシティの概念に則って、過疎地域のあまり使われていないインフラを廃止する取り組みです。経済性を考えると費用対効果の薄いインフラは閉じるべきですが、そもそも必要だから作られているわけで、廃止することが本当に正しい事なのかも含めて、在るものを取り壊すことは反対意見が強くて簡単に決断できるものではありません。集落の閉鎖と一緒に、今後考えていくべき課題です。

また、「②大規模更新事業の着手」は例えば、都市中心部の老朽化した橋梁をイメージしてもらうと分かりやすいかと思います。都市中心部は古くから作られた構造物が多く存在します。明治・大正時代の橋梁もあったりしますがもちろん更新時期が迫っていますよね。大地震が起きてしまう前に今すぐ着手してもいいくらいですが、それらは主要道路であることが多く、架け替え工事をするためには事業用地の確保から地元調整、迂回路の設定など困難を極めます。

ということで、①②共に誰もやりたがらない仕事だと思います。私もなるべくやりたくありません(笑)

今回は②だけに絞ってお話ししますね。

計画を作るのはできる

国の本省が計画を作るのは難しくないと思います。自治体調査であがってきた数字を整理して毎年の補修・更新ペースを考えるだけです。(対策を考えるのは大変でしょうが)

そして、国が示した方針に従い、各自治体が長寿命化計画を策定しています。ぶっちゃけ現場の施工性とかを無視するなら自治体全体の計画を作るのも可能です。

問題は、自治体の計画担当から下りてきた計画に基づいて実地調査したときでしょう。ボロボロのインフラが多すぎるとか、工事の現場条件が特殊すぎるとか、そもそも構造が明らかにアウトとか、隠されていた闇がどんどん明らかになっていくからです。

健全度が悪かったものについて検討した結果、作り替えたほうがいいという結論になったとしても、現場条件が厳しければ簡単に作り替えることはできません。

誰が決断できる?

点検結果が悪かった、更新時期が近づいている、こういった「土木インフラがヤバイ」状況で、「ヨシ!更新事業に着手しよう!私がやります」と言える人はどれだけいるでしょうか。

計画のなかで開始時期をしっかり決めていれば、そのときの事業担当がやるのでは?と思うかもしれませんが、そもそも首長肝いりだったりする新規建設系の事業と違い、更新事業は誰も気にしていないし、開始時期さえも担当技術者の判断に委ねられています。担当・係長レベルで事業開始できないとか、まだする必要がない、と判断して計画担当と協議すれば先延ばしになることもあるのです。

ハイ、ここで役所が抱える大きな問題「標準3年で部署を異動する」が立ちはだかります。

担当職員・係長はそんなリスキーでタフな難工事を自分たちがいる時期にやりたくないのです。調査・検討だけして3年保留すれば部署異動です(役所・部署によって様々ですが、大体2~5年で異動します)。そんな無責任なことがあるのかと憤りを感じますか?でも役所ではありえることです。というか役所・民間に関わらず、すべての困難から逃げずに立ち向かってる人はどれだけいるでしょうか。土木の現場部署はかなり過酷で通常の維持管理だけでも大変で、難しい大規模更新事業に着手する余裕がないというのが現状なのです。

つまり、老朽化したインフラのなかでもやりにくい更新事業はずっと先延ばしになるのです。やりやすいところだけ着手します。もちろん経過観察の判断をすることが全部ダメなわけではないです。

・更新事業はスタート時期が明確に決まっていない
・担当者たちは標準3年で部署を異動する
・通常の維持管理だけでも大変なのに、大規模更新事業はやりたくない

先延ばし( ゚Д゚)

これが私が感じている「土木インフラがヤバイ」の本当の意味です。

カミノ
カミノ

ある意味こういう難しい事業を成し遂げるのが土木行政の醍醐味なんですけどね。なかなか思い切り注力できる環境にはないようです。

いつかくるその日

もちろん、ずっと先延ばしにするわけにはいきませんから、調査したからにはいつか着手する日がきます。たぶん。

それは大きな変状が出たときなのか、事故が起きたときなのか、災害で壊れたときなのか、責任感ある職員が赴任したときなのか、それはわかりませんが、いつの日かようやく更新事業がスタートします。

どうやったら先延ばしは無くなる?

どうやったら先延ばしは無くなるのでしょう?

さきほど述べた素因を解決するしかなさそうですね。一応パッと思いつく解決案を書いておきます。

解決案

更新事業専門の係をつくる

PFI等を活用する

1つ目は、専門チームをつくることによって更新事業に集中できる環境にするってことですね。近年はアセットマネジメントだけを担当する部署も多いと思いますが、さらに細分化して大規模更新事業の担当チームを編成すると優先的にやるべきことに注力できます。というかやらざるを得ない環境になります。

2つ目は、PFI、つまり民間事業者にまるごと委託するってことです。調査~設計~関係機関協議~手続き~地元調整~工事監理など、一連の業務をすべて委託するなら職員の負担は減ります。これなら事業着手のハードルは低くなるでしょうね。もしくは、通常維持管理のほうを民間委託にできれば、職員は重要な事業に取り組むことができますね。

PPPやPFIは建築のほうで話題になることが多いのですが、例えば、PFI法第2条によればPFIの対象となる「公共施設等」には道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、水道、下水道、工業用水道その他の公共施設が含まれており、これらの改修・維持管理にPFIを適用できます。

カミノ
カミノ

実はPFIでも職員の負担は結構あるのですが…(だって市民や関係者のクレームは役所に来るし)

 
ということで、最後は理想論を打ち上げるだけになってしまいましたが、

土木インフラの維持管理・更新についての問題点が分かっていただけましたか?

せっかく土木公務員になったのだから、感謝されることが少ないかもしれないけれど、大規模な更新事業にも挑戦したいですね。

また、「建設事業は起債と補助がメインだからへーきへーき。どんどんやっていこうぜ!」って言う人もいますが、お金は自治体・国関係なく大事ですから、将来働いてインフラを支えてくれる子供たちのことを想って、維持管理のこと考えましょうね。

では今日はこのあたりで。

参考になりましたら幸いです。

コメント

  1. ワキカワ より:

    某県庁の土木公務員を昨年退職した者です。
    書かれている通りの危機感を私も持っていました。
    また、私の県ではどうしても改良が花形になりがちで、修繕の方が忙しいのに、評価もされず不遇な気がしました。そういった風潮も無くしていけばインフラ更新もより進むのかなと思います。

    • ワキカワさん、
      コメントありがとうございます。忙しいところが只の修行場みたいになってますよね。
      風潮を変えるのはなかなか難しそうです。

  2. べけいた より:

    いつも楽しく読ませてもらっています。
    自分が土木(道路、河川)の予算を持っていた時もまさにこの更新について思うことがありました。
    本庁事務屋の予算担当なので、維持費の執行についてまでは権限がありませんでしたが、忸怩たる思いでした。
    知事は観光や県民との交流なんてのを肝入り政策にしないで、こういった維持管理部門の仕事にも目を向けてほしいと今でも本気で思っています。
    多分、インフラの維持なんて想像すらしたことないんだろうなと思っています。

    • べけいたさん、
      コメントありがとうございます。
      なかなか土木系に精通した首長っていませんからね。
      全国民的に考えていかなきゃいけない課題だと思います。

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