
今日は、大災害となってしまった球磨川の氾濫についてお話します。
一般の方にも分かるように、誇張表現などを使っているかも。
専門家の方々ご了承ください。
令和2年7月豪雨
今年の7月は豪雨被害が凄まじいものでした。
九州地方を中心に局地的な豪雨が降り、鹿児島や熊本では記録的な大雨となりました。
水害は九州だけに留まらず、1週間以上に渡り岐阜・長野・広島・島根にも猛威を振るいました。近年頻発している大規模豪雨災害と並び「令和2年7月豪雨」も間違いなく災害史に残ってしまうことでしょう。
7月31日現在で死者数は78人、全壊270棟、半壊576棟、一部破損855棟、床上浸水7676棟、床下浸水8174棟…。
特に7月3日から降った雨での球磨川水系での被害が一番大きく、熊本県の死者数は65名とのことです。
川辺川ダムがあれば被害は減った?
熊本でここまで被害が広がったことに対して、「川辺川ダム建設中止が原因ではないのか?」との批判が数多く上がっています。確かに大きな一因だと思います。
京都大学は、氾濫を避けることは不可能でも市内中心部に溢れ出る水量を一割以下に抑えられたであろうと試算しています。
ダムに1億トンの水を貯めれるんですから当たり前の話です。
「東の八ッ場、西の川辺川」という言葉を聞いたことあるでしょうか。
反対運動がつよくて本体工事に着手できないダム事業を揶揄する言葉です。ただし、東の代表格、群馬県の八ッ場ダムはなんとか竣工までこぎつけ運用を開始しています。
八ッ場ダムは治水できた
八ッ場ダム(やんばダム)は、利根川の主要な支流の一つである吾妻川中流部、群馬県吾妻郡長野原町川原湯地先に建設された多目的ダムである。2020年(令和2年)4月1日より運用を開始した。
Wikipedia
八ッ場ダムでは2019年から試験湛水を始めてたんですが、ちょうど令和元年東日本台風(台風19号)が関東に上陸したときに対災害の貯水テストを行うことが出来ました。下流の被害を抑えて、八ッ場ダムは治水効果を発揮したとの意見もあります。ダム建設に携わった人たちはガッツポーズでしょうね。

ヤンバは出来てよかったですねー。
この西の川辺川というのが、もちろん球磨川水系に計画されている川辺川ダムであります。50年以上前に開始された国交省(旧建設省)のプロジェクトですが、まだ建設計画は中止されたままです。
紆余曲折はWikipediaに詳しく書いてありますので、ぜひ読んでください。
ざっくり説明します。
川辺川ダムの建設中止まで
球磨川は日本三大急流のひとつです。それだけ流れが速く、危険ということ。
1966年にダム計画が始まり、最初はもちろん水没予定地から大反対されます。五木村の村民からしたら何でうちだけが損を丸被りしなきゃいけないのか納得できませんよね。
建設省の合意形成に対する認識の甘さもあり、事業は長期化します。
1984年にようやく五木村と大筋で合意を得られ、補償交渉を妥結するまで至ります。
ここまで18年掛かってるんです。長い長い。
しかし、残念なことに、なんと世の中の気運が公共事業に反対する流れになってしまったのです。ダム事業にも国民の視線が厳しくなりダム反対運動が再発します。煽りまくるメディアの力は強いのです…。
熊本県は川辺川ダム住民討論集会等を開催し住民が広く議論できる場を設けました。反対派は少数派というわけでもなかったようです。ダム事業のような広範囲に影響が及ぶ事業でそんな状況では計画が進むはずもなく、延々と平行線です。
市町村でも賛成派が多かったようですが、反対を表明する市町村もあり、今回被害が大きかった人吉市も反対派でした。地形から見ても大雨が来たら被害が拡大しそうな場所なのによく反対できますよね。
そんな平行線が続く中で2008年に熊本県知事が「ダムによらない治水」に取り組んでいく、として計画に同意しないことを表明しました。熊本県民も支持し、「コンクリートから人へ」で政権奪取した民主党が川辺川ダム建設事業の中止を決定しました。
当初反対していた五木村や周りの市町村は未だにダム建設再開を訴えている悲しい状況ですが、中止になってから10年以上の年月が経ち、ダム事業に翻弄されて村の整備も中途半端になっていて、急激に人口が減った中で観光で村おこしを頑張っているようです。今更ダム建設を推進されても…という手遅れに近い状態かもしれません。

故郷を捨てた人たちの胸中を想うと…。

川辺川ダム中止表明10年 水没免れた熊本・五木村、集落存続に力(産経新聞)

球磨川水害に対して言いたいこと
この球磨川水害に対して言いたいことがいくつかあります。
被災地では泥かきや災害ごみの搬出など人手がいくらあっても足りない状況だと思います。コロナの影響もあり熊本県外からボランティアを受け入れていないので進捗が遅いようです。
こういう災害の場合は他自治体から支援職員が派遣されるのですが、コロナが無ければ全国の主要都市から災害派遣があっていたでしょう。
流域住民だけでやりなさいよ
これだけはどうしても言いたい。
こんなこと言うと不謹慎だとか言われてしまいますが、どうしても納得いかない。
「ダムに反対したのだから自分たちでやりなさいよ。」
ダムに反対するのは別にいい。自然環境悪化、水質悪化や漁業への影響、税金の節約等、色々考慮して流域住民が決めたのなら仕方ない。
で、水害にあったらヘルプ!っていうのは考えが甘すぎるんじゃない?
どうして他自治体が人抜かれて苦しい思いしなきゃいけないんだ。
まともな治水計画立てなさいよ!って言いたいのです。
多くの方が亡くなって、生活も壊された方々も多い最中に言いたくないんですけどね。
それくらい重い決断をあなたたちはしたんですよ。と。

不謹慎ですみません。
多数決の不合理
ダムについての住民討論集会みたいなものを県レベルでしてはいけないのです。環境活動家やマスコミに煽られて、住民が数の暴力化してしまいます。国土を治める事業では世論に流されてはダメで、意見交換会はごく一部で行い、有識者たちの意見も聞き、行政が責任をもって決断するしかないんです。
多数決で選ばれたものが正しいとは限りません。
例えば、コロナで言えば、また10万円全国民に配るか国民投票すれば、賛成が過半数を越えるかもしれません。ただの税金還元である無意味な現金給付だとしても、みんなお金貰えるならイエスに入れちゃうじゃないですか。なんでもかんでも世論に従えばいいというものではありませんよね。
室原知幸の言葉を借りれば、ダム事業は「法に叶い、理に叶い、情に叶う」ものでなければいけませんが、全ての市民の情に叶うことは無理なのです。
法理に叶う計画をたて、不利益を被る人にはひとつずつ合意を得る。これが最短です。
ダム反対を支持した人たちは、水没地である五木村では苦渋の決断をして村を去った人たちも多いということを、知っているのでしょうか。
ダムと流域治水
7月豪雨を受けて、熊本県知事は迷っているようです。
かつての方針を転換するように「新しいダムのあり方についても考える」と述べました。
結果論ですが、まずダムによらない治水計画という代替案が無ければ、ダム計画を中止してはいけないと思います。中止してから代替案を模索するなんて、熊本県知事の失敗です。白紙撤回から12年間で何も進展しませんでした。
ダムによらない治水のことを流域治水といいます。河道を広げたり、堤防を嵩上げしたり、遊水池(調整池)を整備したり、流域全体をフルに使って洪水を防ぐものです。

国は、元々川辺川ダムありきの計画しか作っていないようで、球磨川の河川整備基本方針に則ると河道の改修には限界があり、ダムを造らないとこれだけの巨額の費用が必要になってしまいます。
ダムありきの基本方針なので、ダムが中止された球磨川には河川整備計画がありません。
12年間で何も進展しなかった原因です。

河川整備計画がない一級河川水系は球磨川だけ。
実際、行政の最前線で水害対応もしてきた私からすると、ダムか流域治水どっちかという二者択一の考えが間違っていると思います。
毎年気候変動で豪雨が増えてきてるし、都市化で川への流入量は増大しています。開発業者が馬鹿みたいに市街化区域を開発していますから雨水浸透する余地はありません。彼らも飯食うために仕方なくやってるんですけどね。
もう、ダムと流域治水、両方やるしかないんです。
治水ダムを造りつつ、遊水池や河川改修、洪水時の田畑の活用。すべてをやるしかない。
私たちにできること
ダムの是非は非常に難しい問題で、一朝一夕で答えが出るものではないし、人の考えも一日で決まるものではないでしょう。反対意見を一切耳に入れない人がいたら、その人は危険です。
私が両方やるべき!と言ったからといってそれが正解かはわかりません。
本来、川は氾濫するものです。
氾濫を繰り返して、大地を肥沃にし、農耕を可能にし、文明を育んできました。
自然環境や古来からの文化を守るために、氾濫を許容して、被害を受け入れるという考えは私はアリだと思います。(ただし復興は地元民とボランティアでやってね。)
その自然現象に反抗して流域に住んで人命・財産を守れ!と無理を言ってくるのですから、今更自然破壊だのなんだの言ったら本末転倒です。
危険地域は地価が安くなり、時間が経つと災害危機意識がない人や経済的理由から低い土地にも家々が建ち始めます。行政は彼らを守らなければいけないのです。その責務を果たさず洪水を起こせば訴訟されます。
私たちにできることは、自分たちの身を守るために危険地域には住まない。環境活動家やマスコミの煽りを真に受けず、科学技術に基づいた正しい情報を収集し、感情ではなく理性で判断することです。

自然環境と人間の環境を、バランスよく考えましょう。
大変長くなりましたが、読んでくれてありがとうございました!
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