こんにちは、土木公務員ブロガーのカミノです。
起債(地方債)には、充当率と交付税措置率という大事な数字があります。
地方債の解説記事には書ききれなかったのでここで解説します。
関連記事:地方債とは?
起債充当率とは?
起債充当率とは、自治体負担の事業費のうち起債を充てることができる割合のことをいいます。単に充当率とも呼ばれます。
起債は自治体の借金ですから、事業費をすべて借金でまかなうことは将来的な負担が大きくなってよくありません。そこで、総務省が「この事業は○○%まで借金をしていいですよ」と決めて、地方財政が危なくならないようにコントロールしているのです。毎年「地方債同意等基準運用要項」のなかで事業債ごとの充当率を定めています。

適債性とおなじように充当率も総務省が決めているんですね。
充当率はどれくらい?
では、充当率がどれくらいなのか見てみましょう。さきほども紹介した総務省のWebサイトに載ってます。
一部抜粋してみましたが、↓の表によると、例えば道路工事でよく使う地方道路等整備事業(道路債)であれば充当率は90%です。
河川・砂防でよく使う緊急自然災害防止対策事業債(緊自債)と緊急浚渫推進事業(浚渫債)は充当率100%ですね。こういった国の政策上、数年以内に完了してほしい緊急の事業は自治体がすぐに開始できるように100%になってますし、交付税措置率も高めに設定されます(後述します)


だいたい70~100%くらいみたいですね。
90%とかならもういっそ全部起債にしちゃっていんじゃないの?と思うかもしれませんが、総務省がいろいろと試算して決めてるんでしょうね。少しでも一般財源を使うなら自治体は慎重になりますし意味があると私は思います。
計算例
例えば、単独事業の道路工事で事業費1000万円、充当率90%としましょう。このとき1000万円×0.90=900万円まで起債していい(借金していい)ということになり、自治体の一般財源は100万円で済みますね。

補助事業の場合は、事業費のうち補助を充てた残りの事業費(補助裏と呼ばれます)に対する充当率になるので注意が必要です。県補助や負担金なども同じ扱い。
関連記事:単独と補助の違いって何?土木の補助事業をわかりやすく解説します
例えば、補助事業の河川工事で事業費1000万円、補助率50%、充当率90%としましょう。このときは(1000万円-1000万円×0.50)×0.90=450万円まで起債していいことになります。自治体の一般財源は50万円です。

総務省が示している充当率はあくまで上限です。実際に何%まで起債するかは自治体の自由で、少ない分は問題ありません。また、議決と総務省協議で定めた後は、その範囲内でしか借入することはできません。
交付税措置率とは?
交付税措置率はちゃんと説明しようとすると結構難しいんですが。。。
簡略化して言うと、交付税措置率(算入率)とは、元利償還金のうち国が負担してくれる割合のことです。意外と知らない方もいるんですが、実は借金の一部を国が肩代わりして返済してくれるんですよ。え?マジ?
例えば、交付税措置率100%であれば全額国が肩代わりしてくれることになります。え?マジ?

そんなんだ~国が負担してくれるんだ~すごーい。
と、こんなふうな認識をされてる方もいますが、ちょっとだけ違います。
「交付税で措置される」を正しく理解する
交付税措置を「国が負担する、国が肩代わりして返済してくれる」と表現されることがありますが、あくまで分かりやすくするためで、厳密にはその金額をそのまま国が交付してくれるわけではありません。残念…。
正しくは「後年度の基準財政需要額に算入される」です。このおかげで後年度の地方交付税の計算で有利になり、地方交付税が増えます。
以下は読み飛ばしてもらっても構いません_(._.)_
そもそも地方交付税とは、自治体の行政サービスに必要な経費に対して自治体収入が足りない場合に国がその差額を補填してくれる制度です。言い換えるならば、国が自治体の代わりに地方税を徴収して自治体の貧富の格差をなくすようにお金を配る制度とも言えるでしょう。地方交付税があることによって都会も田舎もなるべく等しい行政サービスを受けることができます。
そして、普通交付税(緊急じゃない地方交付税のこと)の計算式はこのように決められています↓
普通交付税額=(基準財政需要額ー基準財政収入額)=財源不足額
- 基準財政需要額= 単位費用(法定)×測定単位(国調人口等)×補正係数(寒冷補正等)
- 基準財政収入額= 標準的税収入見込額 × 基準税率(75%)
専門用語が難しく感じさせますが、よく見ると、「需要ー収入=不足=交付税」というシンプルな式ですね。自治体の行政サービスに必要な経費(需要)に対して自治体収入が足りない費用を国が交付してくれるという意味です。
この式によると、交付税措置により「後年度の基準財政需要額に算入される」ということは計算のベースとなる金額が増えるということだと分かります。ありえない仮定ですが、もし交付税措置前の基準財政需要額と基準財政収入額が毎年同額で、国の財源が十分にあるなら、交付税措置で算入された金額がそのまま交付税として交付されますね。実際は…どうなんでしょうね…(´・ω・`)
制度が複雑なのでなんとも言えないのですが、個人的には、単純に考えて「需要額に足す」っておかしくないですか?って思います。まあ地方交付税は難しいのでここでは深く考えるのはやめましょう。説明資料でよくされている「交付税措置で自治体負担が減る」という言い方なら間違いではないので、そういう認識でいいと思います。
交付税措置率はどれくらい?
では交付税措置率がどれくらいなのか具体的に見てみましょう。充当率同様にこちらも事業ごとに異なります。
埼玉県が作成してくれている地方債マニュアル(確定版)からR4年度の一般会計事業債の一覧表を引用してみました↓



この表が正しいのかは確認していませんので、必ず年度ごとに総務省からの通知を確認してくださいね。
さて、表(3枚目)によると、さきほど紹介した道路債は交付税措置0%ですが、一方、河川の緊自債と浚渫債は交付税措置70%と手厚い財政措置がとられていますね。それだけ河川の防災・減災は至急の国家政策だと分かります。そのかわりに緊自債は令和7年度まで、浚渫債は令和6年度までの時限措置となっています。
ちなみに、率のところに財政対策債分という欄がありますが、これは地方交付税が不足しているので交付税で措置すべき財政需要を起債で措置するために充当率を引き上げている分です。よく分からなくてもそういうもんだと思ってください。交付税措置率が通常分と財政対策債分で異なるときは注意が必要ですね。例えば、表の一番上の「公共事業等」は交付金事業などの補助裏で使われる起債ですが、実質的な交付税措置率は50%×40/90=22%となります。

市役所がおこなう適債事業の半分以上は交付税措置率が設定してあります。
計算例
では計算例です。
とある1000万円の公共事業について、国庫補助率50%の支援メニューを使い、旧合併債(充当率90%、交付税措置率40%)を活用したとしましょう。
起債はさきほど同様(1000万円-1000万円×0.50)×0.90=450万円となります。
このうち交付税措置は450万円×0.40=180万円
つまり、自治体の実質負担は450万円×0.60+50万円=320万円となります。
財源内訳をイメージ図にするとこんな感じ↓ もちろん先ほど説明した通り、交付税措置の180万円がそのまま交付されるわけではありませんけどね。

おわりに
計算例を交えて簡単に説明してみました。あくまで一般的な単純計算例ですので、場合によっては違うルールが適用されたりするかもしれません。
ここまで真面目に読んでくださった方は気づいたと思いますが、地方財政の健全化だけを考えるなら「国庫補助率」「起債充当率」「交付税措置率」がなるべく高い補助メニューや事業債を選んだほうがいいということです。(起債充当率が高くても将来的には自治体負担ですが、事業年度の一般財源は安くすみます…)
また、国庫補助金とは別に、交付税措置によって実質国の負担にしてもらえる制度はなんだかおかしく感じたかもしれません。交付税措置は地方財政のモラルハザードを引き起こしますから総務省としては縮小していく方針のようです。といっても地方財政は厳しいので無くなることはないと思います。
規模が小さい田舎の自治体では補助事業などをする機会が少なかったりするかもしれませんが、補助や起債について都道府県へ相談する際はこのような制度のルールは常識となりますので知っておきましょう。

詳しくは都道府県の地方債マニュアルを読んでね。
では今日はこのあたりで。
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